第11章
野球部の危機





朝から高橋が深刻そうに話をしている。他の奴もかなり深刻そうな顔して聞いている。眠そうな顔をしているのはたぶん自分だけだろう。

結城「・・・フワァ〜」

結城は欠伸を一つした。すると、どうだろう。全員が一斉にこちらを向いて結城を睨んできた。

結城「(殺気だってる・・・)」

普通、こんな事を知らされたらもっと慌てるはず。だが結城には元々そんな感情がない。この時だけ自分が誇らしく思えた。

高橋の話が終わった。結城以外の顔に焦りの色が見え始める。そりゃそうだろう。夏の大会が近いのに顧問がいなくなってしまったのだから。

*「おい、どうするんだよ!顧問がいないと試合ができないだろ!

と一人の部員が大きな声で怒鳴る。

結城「・・・誰だっけ?」

名前がでてこない。確か宮沢だった気がするが・・・

篠原「と、とりあえず落ち着けよ。な、黒崎

篠原がかなり動揺しながら黒崎という男を灘めた。

結城「・・・似たようなもんか

隣でいた由利は「いや、全然違うだろ」と心の中でひそかに突っ込んだ。

あい「あの〜副顧問の先生は・・・」

西条「そういや、副顧問見たことないな。一応いるんだろ?」

あいと西条が高橋に問う。高橋は申し訳なさそうに言った。

高橋「・・・いないよ」

結城以外の部員達はさらに感に包まれた。まるで二重構造の絶望という空間に包まれているようだ。

あの笑顔を常に絶やさないあいですら顔から笑顔が消えていた。

西条や篠原といった奴らは退部届を書き始め、高橋にいたってはロープを木に結び始めた。

とりあえずこの場の空気を少しでも良くするために結城は一つの案をだした。

結城「・・・いなくなったのならまた探せばいい」

あい「そうですよ。また探せばいいじゃないですか」

その案を聞いたあいの顔に笑顔が戻った。

由利「そうと決まればさっさと探しにいくわよ!」

由利が朝から元気良く顧問探しの先頭に立つ。だが、一人の男が突っ込んだ。

佐々木「待てや。まだ朝やから来てへん先公がまだまだおるで」

関西弁である佐々木が由利のテンションに水を差すような事を言ってしまった。

当然、由利は怒るだろうと結城は予測した。案の定、由利の目を見た瞬間佐々木は黙り込んでしまった。

佐々木「ごっつぅこわぁ・・・」

高橋「まぁ、とりあえず昼休みにでも探そうよ」

木に結んでいたロープを解きながら高橋はそう言った。

由利「じゃあ昼休みに探しに行くわよ、みんな!」

結城以外の全員「おー!

結城「・・・眠い」







そして、昼休み。神城野球部は顧問探しを始めた。・・・まぁ、職員室に突撃しに行っただけなのだが・・・

そして・・・10分後

由利が頬を膨らまして出てきた。

由利「何よ!あんな言い方しなくたっていいじゃない!ホントあのハゲ体育教師むかつく!大原先生は先生で今日休んでるさ!」

由利がカンカンになって怒っている中、さっきからあいが何かを探している。あおいはそれに気付き、あいに問う。

あおい「どうしたの?」

あい「・・・今、気付いたんだけど、結城さんは?

あおい「え?」







結城はグラウンドにいた。由利に殺される覚悟で昼寝をしにきたのだ。大体自分は人に行動を縛られるのは嫌いなのだ。

だが、由利に言えば痛い平手打ちが待っているのは容易に思いつく。

とりあえず明るい明日が見られるように、と祈りながらいつもの場所へと歩みだした。

結城「?」

だが昼寝場所にしているところに女性が座っていた。ここの先生と誰でもわかる。

*「(ポヤ〜ン)」

・・・すごく幸せそうに見えてしまうのは気のせいだろうか。近づき難い。そう思ってた矢先だった。

*「・・・あれ?」

座っていた女性は結城の存在に気付いた。

*「いい天気ね〜」

のんびりした口調で結城に話し掛ける。結城はとりあえず返事をした。

結城「・・・そうですね」

*「でも、暑いわね〜」

結城「・・・そうですね」

トロイ。この先生の印象はそれだけだった。だが・・・

*「君って・・・野球部の子でしょ

結城「・・・え?」




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