第12章
今井投手





結城「・・・え?」

*「その反応の仕方は当たりみたいね。職員室で話題になってたもん」

やっぱり教師か、と思った。しかし、見た目はかなり若い・・・というより幼く(?)見える。

まぁ、そんな事はどうでもいいと脳がすぐさま反応したので話に戻る事にする。

そういや、噂とはなんだろうか。野球部で悪い噂はないはず。しいて言えば、女子生徒が良く来ているぐらいだ。

・・・俺の名前をいつもキャーキャー呼んでいるのはできれば気のせいでいたい。

余計な事を思い出してしまった。気分が悪い。とにかく、噂とは何か聞いてみることにする。

結城「・・・噂とは」

*「確かねぇ・・・野球部顧問の大原先生がやめたって。私、今きたばかりだからホントかどうか知らないのよね〜」

結城「・・・ホントです」

結城はいつも以上に青くなって答えた。今、真面目に考えてみたら、顧問がいなくては試合ができない事に今頃気づいた。

今頃になって気がついた俺は馬鹿かとすごい後悔感に包まれた。強烈に青くなっている結城を置いて女性教師は独り事を言い始めた。

*「野球か〜、私も父さんに刺激されてソフトボールやってたけどな〜。あの頃は楽しかったな〜」

結城「・・・」

これは、私を顧問にしてくださいと遠回しな言い方をしているのかホントに独り事なのか気になったが、この際なんでもいいことにする。

このチャンスを逃すわけにはいかない。

結城「先生」

*「ん?」

結城「顧問になってくれないでしょうか?・・・俺の命がかかってるんです」

いきなりすぎたが気にしないことにする。まぁ、あっさり「いいよ」と言う教師もいないだろうと結城は思っていた。

だが・・・

*「いいよ

結城「・・・マジかよ

*「何時ぐらいに部活は始まるの?」

結城「16時頃・・・」

*「大丈夫みたいね」

結城「・・・何が?」

*「気にしない〜、気にしない」

何が大丈夫なのかかなり気になるが・・・

まぁ、顧問になってくれる教師が見つかったので殺されずにすみそうだ。そう思うとホッとする。

結城「あと・・・」

*「?」

結城「なんで遅刻したんですか?」

女性教師は笑顔でそれも「気にしない」と言った。







そして・・・夕方

部活が始まる時間である。顧問が見つかった事を由利に伝え、結果オーライということで許してもらえた。

・・・明日を拝めそうだ。グラウンドにいつものコンビ西条と篠原の二人が新しい顧問について話し合っていた。

西条「どんな先公だろうな」

篠原「優しそうな先公希望だ」

そして、高橋が全員部室前に集合と言った。二人は・・・というより二人以外の部員も「待ってました」という感じだ。

そこには女性教員が高橋の隣に立っていた。すると、ほとんどの部員が気持ち悪いぐらいの笑みを見せた。

結城・高橋・女子3人は見事なまでに引いた。結城とあおいが同時に「うっ」と唸ったぐらいだった。

さすがの女性教師も少し引いた。高橋は話を戻し、新しい顧問の先生の紹介に入った。

高橋「今井先生、一応自己紹介をお願いします」

咲輝「今井 咲輝って言います。あまり役に立たないと思うけど夜露死苦ね」

高橋「(暴走族?)あと、何か監督になってくれる人がいるとか・・・」

すると、どこからか声が聞こえる。すると咲輝はその人のところへ走って行き、こちらへ連れてきた。

咲輝「紹介するわね。私の父親の・・・」

監督「今井俊彦じゃ。宜しく」

西条はその名前を聞くと同時に表情が驚きに変わっていった。

篠原「知ってるのか?」

西条「馬鹿!今井俊彦っていったら広島の元大エースだぞ!沢村賞二回、最優秀防御率三回・・・」

力説している西条。その声は監督につつ抜けで監督も恥ずかしくなってきたのか少し頬を赤らめながら「もう、よしてくれ」と言った。

そして、監督の話が始まった。

監督「ここにいる全員が夏の大会が始めての大会になる。ワシはいきなり地区予選優勝しろとは言わん。

だが、せめて一勝はできるよう練習に励んでくれ。いいな」

全員「はい!

監督「ウム。いきなりすまないが今日は用事があるので帰らせて貰うかのう」

高橋「用事とは?」

監督「うむ、近所で新しいパチンコ屋ができたみたいでのう。だから行ってこようかと・・・」

全員が監督に向かって口を揃えて「いや、ちょっと待てよ」と言った。

結城「・・・はぁ」

結城はこの監督が不安でたまらなかった。

七月、いよいよ地区予選が始まる。




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