第14章
二つの打法





審判「ボール!」

升「(妙だな。3球とも見逃しだなんて・・・)」

西条「緊張して動けないとかないよな」

篠原「んなこたーない」

篠原はタモリ口調でそう言った。

結城「(たぶん、あいつは打つタイミングを測っている・・・)」

だが、あの構えにやはり違和感を感じる。多分だが見た記憶があるのだ。だが、どこで誰が使っていたか思い出せずにいた。

あおい「前は、結構積極打法だったのに・・・。それに、いつもと・・・何か違う?」

あおいも高橋の変化に気がついたようだ。熱気の漂うグラウンド。暑さで景色が歪んで見える。

升「(インコースの高速スライダー。少し真ん中に入ってもいいからおもいっきり投げろ)」

木村はさっきと同じように二回ほど頷いた。

第4球目。カウント2-1。結城はハッとした。

結城「思い出した・・・あの打ち方は・・・


(フワ・・・)


なんと高橋は前足を軽く振って打ちにいったのだ。

西条「何だ、あの打ち方は!?

升「(振り子か!?)」

振り子にしては振り幅がやや小さいものの確かに振り子だった。


(カキーン!)


高橋のバットは振り遅れながらもしっかりと芯で捕らえレフト前ヒットになった。

篠原「ナイスバッティング!公式戦チーム初ヒットだ!」

西条「キャプテンに続けよー!」

たったヒット一本で騒いでいる神城野球部。高橋もかなり驚いている様子だ。

高橋「(う、打てた。福浦選手の振り子で・・・)」

*「三番 キャッチャー 笹田君」

結城「さて、俺もそろそろ行ってくるか」

結城はヘルメットをかぶりバットを持って、ネクストバッターボックスへ向かった。

笹田「(やはりな・・・)」

監督は何かのサインを出していた。

木村「(どうする?)」

升「(ここはバントしてくるに違いない。・・・できればキャッチャーゴロもしくはフライにするのが好ましいが・・・)」

少し悩み、升はサインをだした。

升「(とにかく、一球目はストレートで外すんだ)」

木村は頷いた。セットポジションから第一球目を投げた。高めのボール球を升は要求していた。だが、微妙にズレてストライクゾーンに入ってしまった。

笹田「(いけるか!?)」

笹田はバットをボールに当てにいった。

升「(やられた!)」

打球は小フライになったがピッチャーとキャッチャーの間に落ちた。その間に高橋はセカンドへと走る。

木村「チィ!、ファースト!」

木村はセカンドで刺すのは諦め、ボールをファーストへと送球した。

三輪「よっと」

審判「アウト!

送球が多少高めにいったものの三輪は少しジャンプし笹田はアウトとなった。

黒崎「ササ!ナイスバント!」

笹田「(なんとかなったな)」

そして2死2塁のチャンスとなったところへ・・・

*「四番 サード 結城君」

*「キャアアー!結城君!頑張って〜!

一塁側のスタンドは大変な事になっていた。もし、俺に死球を食らわせたら相手投手はどうなるんだろうと、ふと思った。

結城「(ていうか煩い・・・)」

結城は打席に立ち、軽くバットを前に振る。これももういつもの事である。升と木村は結城を見てふと思った。

升「(こいつ・・・)」

木村「(生気を感じられないが・・・)」

そんな感想を持ちながら木村はセットの構えをとり、升はサインを出す。一回、二回と木村は首を横にふる。

三回目で縦に頷き、そしてセットの状態から足を上げた。

結城「(あんまり使いたくなかったが・・・)」


(スッ)


なんと同時に結城は左足を大きく引き上げたのだ。

木村「(な!?)」

升「(こいつ本気か!?)」

この二人以外にも味方も敵も結城の打ち方に衝撃を受けた。こんな奇妙な打法、誰も見たことがなかったからだ。ただ、あおいと監督を除いては・・・

あおい「監督の選手時代あたりじゃないですか?」

監督「そうじゃ。懐かしいのぅ。王と神崎を思い出すわい」

あおい「神崎?

監督「知らんか。まぁ、無理もない。神崎とはな・・・」

二人の話は思い出話に発展していった。しかもあおいは次のバッターなのに何故かベンチにいた。

木村は足を降ろし第1球目を投げた。結城も足を降ろしバットを振った。


(カキーン!)


打球はバックネットに飛びファールになった。

第2球目、内角から外角に逃げるカーブ。結城はこれも捕らえファール。

升「(こいつよくこんなので打てるな)」

第3球目、外角低めのストレート。結城は足を降ろしバットを振った。


(キーン!)


木村「サード!」

打球はサードの右。充分捕球範囲だった。

直井「(は、はやい!)」

打球は直井のグローブを僅かに掠ったがレフト前に抜けていった。

黒崎「ナイスバッティング!」

直井「なんて打球のスピードだ・・・」

直井は3塁ベースの横でそう呟いた。

*「キャアアアー!結城君!!

もはや、お決まり文句になってしまいそうな歓声だ。

あい「す、すごい歓声・・・」

咲輝「・・・ある意味フーリガンより迫力あるわね」

あいも咲輝もこの声にはかなり驚かされていた。

2死2・3塁。先制のチャンス。エラー、パスボールでも点が入る状態。今度はこの選手を迎える。

*「五番 ライト 一条君・・・ 失礼致しました。五番 ライト 一条さん」

あおい「間違えないでよ・・・気が抜けちゃうじゃない」

篠原「ククッ間違えた・・・面白い」

西条「笑うなよ・・・一条に失礼・・・プッ!」

高橋も塁上で手で口を塞いで必死で笑いを堪えている。三人以外にも笑っている奴は他にもいた。

あおい「(試合が終わったら・・・覚えときなさいよ)」

升「お、」

木村「女・・・」

二人は女性選手に驚きを隠せなかった。しかも五番を打っているからさらに驚きである。

升「(初球は変化球で様子を見てみよう)」

木村は黙って頷く。そして第1球目を投げた。ど真ん中から内角へ食い込むスライダー。


(ブォン!)


審判「ストライク!」

あおいのバットは勢いよく空を切った。

升「(すごいスイング・・・女とは思えねぇスイングだな)」

第2球目、外角低めのストレート。

あおい「(きた!ストレート!)」

だが、少し外れている。見逃せばボールだが・・・

結城「あのコースは彼女にとって・・・」


(キーーン!!)


升・木村「!?




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