第16章
先制弾





バットの金属音が球場中に響き渡る。結城の打った球は大きく打ち上がりそして伸びていった。例えるならそう弾丸みたいな感じだ。

升「レフトー!バックー!

打球はレフトスタンドに向かってキレイな孤を描く。結城は打席から2・3歩駆け出したところで立ち止まった。正直自分の中で打った感触はかなり良かった。

だが、当たりが良すぎたのかわからないが不思議とファールになるのではないかと不安が過ぎった。

結城の不安は的中した。打球が少しずつファールゾーンへとキレていくではないか。

升「キレるか!?

木村「頼む!キレてくれ!

この二人以外にも相手ベンチから「キレてくれ!」とか「入るな!」といった声が騒がしく聞こえてくる。

当然のように「入れ!」「キレるな!」といった声も味方のベンチから騒がしく聞こえてくる。

あい「お願い!入って!

黒崎「入れ!

打球はまさにホームランゾーンとファールゾーンの境目だ。

結城「・・・!」







(カーーーン!)


大きな金属音が鳴り響く。打球はポールを直撃し外野のグラウンドに落ちた。審判がグルグル手を回している。ホームランだ。

笹田「おお!

あい「凄いです!結城さん!

由利「さすが私の幼なじみ!」

ベンチも大騒ぎだが、一塁側のスタンドも狂喜乱舞していた。

*「キャアアー!結城くーん!!!

結城は一塁ベースを蹴って二塁ベースを目指す。ただ、静かに何かを思いながら・・・

三塁ベースを蹴って神城ナインが待っているホームに帰って来た。

篠原「コノヤロー。美味しいとことりやがって!」

西条「かっこよすぎだぜ!」

バシバシと頭を叩かれている結城。その時、二人の声が聞こえた。一条姉妹だ。

あい「結城さん!」

あおい「結城君!」

二人が一緒に駆け寄ってくる。そして・・・

あい・あおい「ナイスホームラン!

二人が同時に口を開き同じ事を言った。さすが双子といったとこか。

結城「え、え〜と・・・ありがとう」

さすがの結城もこれには参っていた。

あい「次もホームランをお願いしますね!結城さん!」

結城「ああ」

あいとは明るい会話だった。さっきから周りから殺気を感じているが・・・たぶん西原(篠原)や篠条(西条)の奴らだろう。

あおい「公式戦第一号ね」

結城「そうだな」

そして二人は黙ってしまった。

由利「(会話終了!?)」

あおいとの会話は暗いというよりあっさりって感じだ。だが・・・


(パン!)


あおいと結城はお互いの片手を軽く叩きあった。人一倍いや、三倍は練習したといえる二人の会話代わりのものと言っていいだろう。

だが、これを見た、篠原、西条といった連中は冷やかし始めた。しまいにはあの無口な川相三兄弟までからかい始めた。

篠原「いよ!御両人!熱いねぇ!」

西条「見てるこっちまで熱いよ!」

川相一「二人とも」

川相二「たいへん仲が」

川相三「宜しいことで」

あおい「やっぱあんたら今殺す!

あい「まぁあおい。落ち着いて」

あいがあおいを灘める。

からかった西条や篠原といった連中は防御体制をとっていたがあいの声を聞いた直後「さすがあいちゃん」と思った。だが・・・

あい「何も、今やらなくても今度の部活のときにあれで仕返しすればいいんじゃないかな?」

あおい「あれか〜。そうだね、そうしようっと♪」

気分が楽になったあおいはバッターボックスへと向かった。からかった連中は気分が重くなり血が通ってなそうな顔をしてベンチへと戻っていった。

あおいがバッターボックスに立った。

マスク越しで気付きにくいが随分と待たされていた審判の顔から止む事を知らない大量の汗が流れており、顔だけ水につけた様な感じになっていた。

だが、そんな可哀相な審判の状態を知る者、知ろうとする者はいなかった。少し音が割れたアナウンスが聞こえてきた。

*「五番 ライト 一条さん」

帰って来た結城に監督が話し掛ける。

監督「ナインホームランじゃ、結城」

結城「・・・どうも」

監督「しかしお前が一本足で打つとはな」

結城「一本足・・・監督はどう思いますか?」

結城は尋ねた。昔、一本足で打って監督に禁止されたことがあった。

監督「いいんじゃないかのぅ。わしゃあ、フォームにこだわりなどないしのぅ。ただ・・・」

結城「?」

監督「一本足で突き通すということだけは約束してもらえるか?わしゃあ、中途半端が嫌いでのぅ」

結城には迷いはなかった。元々、これから先は一本足で打っていくと決めていた。これは、ホームランを打つためではない。ヒナとの約束のためだからだ。

結城はいつもと変わらぬ口調で監督の質問に答える。

「はい」と。







(ギィィン!)


結城「お、いい音」

結城はバットの金属音を聞きグラウンドを見る。どうやらあおいが打ったみたいだ。

升「(!?)」

打球はセンターバックスクリーンへと伸びていく。1打席目に打った打球とは明らかに伸び方が違う。

升「センターバック!

増川「(嘘だろ!?)」


(ガシャ!)


打球はフェンス直撃だった。あと20p上ならスタンドインだったかもしれない。

あおい「よし!

あい「キャー!あおい〜!」

あおいは悠々と2塁に走る。記録は二塁打。あおいは手を大きくあげた。

監督「惜しいのぅ。あと少しじゃった」

結城「ナイスバッティング・・・だな」

マウンドに敵のナインが集まっている。

升「なんつーバッティングだ。高めの完全なボール球を打ちやがった」

木村「と、とにかくこれ以上の追加点は許されない」

升「そうだな。よしいくぞ!」

このあと木村は六番に四球を与えるが後続を三者三振に打ち取りエースの意地を見せた。







5回の表、8・9・1番の下位から上位に繋がる打線。西条は全員ゴロで打ち取り見事三者凡退に抑えた。ここまで西条が許している被安打は4。

今の西条の状態から見れば勝てるかもしれないという思いが神城ナインに少しずつ出始めた。だが6回・・・







審判「ボール!ファアボール!

西条はこの試合初めてのファアボールで先頭バッターの三輪に四球を許してしまう。

西条「ふぅ・・・」

空を見上げ、汗を拭う西条。笹田はその異変に気がつく。

笹田「(妙だな・・・)」

*「三番 ショート 藤原君」

笹田「(バントの確率が高い。一球外して様子を見よう)」

投じた第一球目、コースは高めのストレート・・・ではなかった。

笹田「(まずい!失投か!?)」

投じた球はやや内角の寄りのコースだった。当然藤原はこれを逃すはずがなかった。

藤原「(貰った!)」


(キィィィン!!)


金属バットがいい音をたてた。打球は右中間。

笹田「センター!ライト!」

打球はセンターとライトを大きく越えていき、右中間の一番深いところのフェンスにワンバンで当たった。

多少センター寄りの打球だったため、黒崎が先に追い付いた。

黒崎「ショート!」

黒崎はあらん限りの力で送球した。ショートの篠原はそれを受取りサードの結城へと送球する。

篠原「サード!」

藤原はサードに向かって走って来ている。タイミング的には微妙だ。結城は送球を受取り藤原にタッチをした。判定は・・・

審判「セーフ!セーフ!

笹田「ああ・・・」

結果はセーフ。藤原のタイムリースリーベースで1-1の同点となった。

升「ナイスバッティングだ!」

直井「よし!藤君に続くぞ!」

無死3塁。ここで四番 直井。西条の息遣いも少し荒い。

笹田「(まずいな)」

笹田はマスクを被りながら思う。だが、西条は気合を見せ付けた。

審判「ストライク!ツー!」

カウント2-3でなんとか追い込みに成功した西条。あとはスローカーブで三振・・・をとるはずだった。


(フワ〜)


西条「しまっ・・・」

投じた球はど真ん中にいってしまった。球速もスローボールと変わらない。西条にとってまさに最悪の球だった。

直井「いただき!


(ギィィン!)


西条「!?

打球はライトスタンドへと伸びていく。西条はただ呆然としていた。だが、そこには信じられない光景が球場全員の目に飛び込んできた。

直井「な!

結城「・・・怪我しないようにな」




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