第18章
センスある者





あおい「初のアウトが三振・・・く〜・・・サイコー!

喜びを抑えきれず思わずガッツポーズとるあおい。

あい「ナイスよ!あおいー!この調子で頑張ってー!」

メガホンで叫ぶあい。審判が一瞬こちらをチラッと見たがあいはお構いなしである。

性格が違っても喜び方は同じ。やっぱり姉妹なんだなと思う結城であった。

*「六番 センター 増川君」

増川が打席に向かう途中升とすれ違った。升は増川と一瞬目があったが何も言わずにベンチへと帰っていった。

増川「英ちゃん・・・」

増川が心配そうな声を出す。だが、升と似たような状態になるのを増川は知るはずもなかった。







(ズバーン!)


審判「ストライクツー!」

あおい「ふぅ・・・」

増川「追い込まれた・・・」

カウントは2-2。あおいはストレートだけで追い込んだ。

笹田「(そろそろか?)」

あおいは増川に対して第四球目を投じた。

増川「(ど真ん中!)」

投じた球はど真ん中。増川はチャンスといわんばかりに思い切りバットを振った。


(ククッ!)


増川「な!?・・・」


(バシッ!)


審判「ストライクバッターアウト!チェンジ!」

笹田「一条!ナイスピッングだ!」

笹田は大きな声であおいに言った。篠原や黒崎といった連中もあおいの周りに集まり同じような事を言っている。

増川がベンチにたどり着いた。ベンチの雰囲気もあおいの投球によって重苦しくものとなっていた。そんな中、升が増川に話し掛ける。

升「・・・どうだった?」

元気のない声で尋ねる升。5秒ぐらいして増川の口が開いた。

増川「・・・消えるような感じだった

その言葉を最後に二人の会話が終わった。




それに比べて神城のベンチはとても明るい。この差はまるで夏と冬の気温差みたいだ。

笹田「一条・・・ナイスピッチングだけど・・・」

笹田が少し怒った感じであおいに言う。

あおい「けど?」

笹田「スクリューがあるなら言っとけよ。危うく後ろへ反らすとこだったじゃないか」

あおい「ああ、ごめんね。笹田君なら大丈夫と思ったから・・・」

笹田「たくっ・・・まあいいけどな」

笹田は少し笑みを浮かべながらそう言った。7回の表、5・6・7番の下位打線に繋がる打順。


(カキーン!)


篠原「よし!

草薙「よっと」


(バシ!)


審判「アウト!」

篠原「あ〜・・・」

西条「惜しい!あと5p上だったら・・・」

篠原が惜しくも敵のファインプレーに阻まれセカンドライナーに終わりチェンジとなった。

7回の裏、あおいは七番に四球を与えるが他を完全に抑えた。この回だけで三振は二つ。いずれもスクリューだった。

このスクリューを見ていて結城はある事に気付く。

結城「(ストレートと球速があまり変わらないな。さっきスクリューを投げた時、139キロって出てたし・・・)」

だが、ここから先を考えるのを止めた。理由はいつもの「めんどくさい」だった。

結局両投手の投げ合いで7・8回は両チーム共に無得点で終わり試合は1-2のまま最終回を迎える。

神城高校はベンチの前で監督を中心に円陣を組んでいた。

監督「泣いても笑ってもあと一回じゃ。わしゃあまだお前らに秋の大会に向けて頑張ろうとはまだ言いたくない」

全員黙って、監督だけを見つめていた。

監督「最後まで諦めない者が試合を制する。だからお前達も最後まで諦めるな!そして勝利をもたらせ!いいな!

全「オオー!!

監督の言葉で全員にやる気が起こる。高橋がヘルメットを被り「最後まであがいてみせます!」と言った。そして、アナウンスが流れる。

*「九回の表、神城高校の攻撃です。二番 セカンド 高橋君」

高橋「(なんとしてでも出塁しなくちゃ)」

高橋に大きなプレッシャーがかかっていた。汗の量、バットを握っている力、どれも凄まじかった。

西条「頼んだぞ!高橋!

由利「キャプテンー!ファイトー!

ベンチから味方の様々な声が飛んでくる。高橋は大きな声で「オオ!」と返事した。

だが、高橋が「オオ!」の声が堪らなく可愛いと思うのは俺だけだろうか、と思う結城だった。

升「(・・・大分力んでいる。ならば・・・)」

木村「(なるほどな・・・)」

木村は升の出したサインに頷き第一投目を投じた。その球種は・・・

高橋「(スローボール!?)」

升「(そら、強振しろ)」

高橋はバットを振り始めている。このままではバットの先に当たりポップフライ、もしくはセカンドゴロになるのがオチだろう。

だが・・・

高橋「・・・!」


(ザッ)


木村「(何!?)」

結城「(ステップをやり直した!?)」


(カキーン!)


升「

高橋「(あ・・・)」

高橋が打った球は綺麗に三遊間を抜けレフト前ヒットとなった。神城にとってそれは大きな大きなヒットだった。

だが、他の者そして打った本人も今のヒットよりステップをやり直した事に驚いていた。

黒崎「今、すごい打ち方したよな?」

篠原「二段ステップ・・・ていうのか?」

監督は顔色一つ変えずにただ黙っていた。

*「三番 キャッチャー 笹田君」

笹田はサインを出してないか確かめるために監督の動きを確かめた。監督は帽子の鍔を触っていた。

笹田「(・・・なるほどな)」

その意味は・・・

升がピッチャーマウンドにいる木村と話をしていた。

升「きっとバントをしてくるはずだ」

木村「ああ。だから俺かお前が捕ったらセカンドで刺すぞ」

升「そうだな。あと三人だ。気合入れていくぞ!

木村「オオ!

升は元の場所へと帰っていった。笹田は軽くバットスイングをしていたがそれに気付き打席に入った。

審判「プレイ!」

笹田「(・・・成功しますように)」

木村は第1球目を投げた。笹田はバントの構えをとった。

木村「(やはりな)」

内野陣が前に寄ってくる。

監督「(いけ)」

なんと笹田はバットを引き、そこから打ちにいったのだ。

木村「何!?


(キン!)


打球は手前で強くバウンドし直井に襲いかかった。

直井「うあ!」


(バシ!)


直井のグローブを弾きボールはファールゾーンへと転がっていった。

笹田「(バスター作戦・・・成功だな)」

サードの直井が打球を拾ったころには笹田は一塁ベースに到着していた。

升「(まずいな・・・)」

升がそう思うのも無理はない。無死1・2塁の同点のチャンス。

そして、3打数2安打1本塁打1打点と木村から打ちまくっているこの男を迎えるからだ。

*「四番 サード 結城君

西条「一発頼むぞー!」

由利「尚ー!頑張れー!」

味方のベンチからは大きな声援をうける。それは明らかに高橋のときより声が大きかった。

だが、結城にその声援が届くことはなかった。何故なら一塁側スタンドからも大変大きすぎる声援が聞こえてくるからだ。

*「結城君ー!頑張れー!打ったら私たちをお持ち帰りしていいわー!」

結城「(いらないていうかもう帰ってくれ)」

そこへ球場の係員が現れた。そして、結城&笹田ファンクラブの連中は係員に連れられていった。つまり追い出されたわけだ。

これにはさすがの結城も呆気にとられた。笹田も味方も敵も合わせて他の人達は何が起きたかよく理解できていなかった。

ただ一塁側スタンドをみていた。







敵のナインはマウンドに集まりなにやら話をしている。

あい「敬遠でしょうか・・・」

監督「いや、それはない。無死1・2塁だしな」

敵のナインは元の場所に戻り升はマスクを被る。内野陣はサード・ショート以外前進守備をとり外野陣は・・・

升「(打ち合わせ通りに頼む)」

升はサインを出し木村は黙って頷きストレートを投げた。そのコースは打ち合わせ通りの内角ギリギリのストレート。

結城はその球を見送った。いや、

審判「ストライク!」

結城「(・・・?)」

結城はバットを構えなおすために一度バットを前に振る。同時に外野手が目に入ったがその外野の守備陣形を見てすぐに気付いた。

それは・・・




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