今日、ここ鳴門球場で神城高校と六音学園との2回戦が行われいた。1回戦よりもスタンドは埋まっており神城高校の生徒もそれなりに応援に来てくれていた。
・・・・・ちなみに結城・笹田ファンクラブの連中はブラックリストに載ってしまい
この球場に入ることを禁止されたということを野球部の誰だったか忘れたが聞いた。
現在7回の裏。先頭バッター高橋がショートゴロで終わったところである。
スコアボードには敵チームのスコアに1という数字が刻まれていた。だが神城高校には0しか刻まれていない。つまり神城高校は負けていた。
1回の表にセカンド 高橋のタイムリーエラーで1点を失ってしまった。神城高校も負けじと10安打しているが全て決定打を欠き点を入れることができずにいた。
南山「榊さんはこの回、どうなると思いますか?」
帽子を被っており、高そうな制服で笑顔が似合いそうなこの生徒が榊という男に問う。
榊「3番 一条で4番 結城君か・・・・・」
榊は少し考えてからこ、答ヲたB
榊「あの二人で逆転、という可能性ありだな」
南山はどうしてそう思えるのか理由を尋ねたみた。榊は笑顔で「あの二人だからだよ」と答えた。
確かに二人は強打者だ。強打者だが、そんな簡単にうまくいくはずがないと思った。今日の相手は一度練習試合で戦った高校。
守備が手堅くピッチャーも要所でしっかり抑えてくるので俺達ですら12安打しても1点しか許さなかったあの河崎投手だ。
その1年生チームが2点をいれるなど奇跡に等しい。南山はそう思っていた。だが、その考えは完全に覆された。
(ギィィィィィン!!)
あおい「あ・・・・・」
あおいはバットをゆっくりと置いた。打球は右中間方向。弾道はやや低かったがライナーでスタンドに飛び込んだ。
河崎「う、嘘・・・・・」
河崎はただ呆然とするしかなかった。あおいは左手を高く挙げゆっくりと1塁、2塁・・・と通過してホームに帰って来た。
ナインがホームに集まろうとベンチから出てくるが一番早かったのはやはり姉である一条 あいだった。
あい「ナイスホームラン!あおい!」
あおいも笑顔で返事を返す。
あおい「ありがとう!お姉ちゃん!」
続いて篠原達がやって来て「ナイスバッティング!」「よくやった!」などの感想をそれぞれあおいに言った。
結城はあおいの前に立った。そして、あおいのヘルメットに手を置きこう言った。
結城「ナイスホームラン」
その一言だけだったが、あおいはなんだか恥ずかしくなり顔を赤くした。
そしてそれを隠すためにあおいはヘルメットを顔が隠れるようにずらした。
この時、篠原達はあおいをからかおうと考えたが、もう一度アレをされるのは嫌なので黙っておくことにした。
榊「まず同点」
南山「・・・・・」
南山は黙っていた。いや、黙ることしかできなかった。まさか本当にホームランを打つとは・・・・・。しかも打ったのは女。
あの河崎投手からホームランを打ったのも驚かされたがその女のパワーにも驚かされた。
だが驚きはこれだけでは終わらなかった。当然驚きを作った人物は・・・・・。
*「4番 サード 結城君」
いつものようにバットを前に軽く振って構える。普通のバッターとは違う空気。
一回戦で戦った浅瀬川商業のエースピッチャー 木村がベンチでいたときに言った言葉だ。
さらにあおいから一発を受けて動揺している河崎。そんな彼がその空気に耐えられるはずがなかった。
(ギィィィィィン!!)
結城は初球、内角に食い込んでくるカーブをおもいっきり叩いた。打球は高々と上がり左中間スタンドに飛び込んだ。
センター・レフトが一歩も動けなかった見事な勝ち越しホームラン。静かにバットを置き静かにベースをまわる結城。
ピッチャーマウンドでは河崎がうずくまっている。結城は河崎投手のカーブ以外に何かを打ち砕いたのだ。
南山「な・・・・・」
榊「さて、ここからはウェイティングが鍵だな。南山」
榊は顔色一つ変えずに言った。普通、2者連続ホームランならもっと驚いてもいいと思う。
それだけあの二人をかっているということなのか、と南山は自分の中で結論を出した。
榊「・・・・・南山?」
南山は慌てて返事を返す。
南山「え?あ、そうですね。2発もやられたら相当動揺するだろうし、放っておいたほうが四球で出塁できる可能性は高いし」
榊「制球力が武器のピッチャーはここからが地獄だな」
南山「ですね」
南山は短く返事を返した。そして二人の勘は見事に当たった。
5番 笹田と6番佐々木が四球で出塁すると7・8・9番に連続でヒットが出てこの回神城は1-4と逆転に成功する。
そして8・9回。
南山「流れは神城高校に完全に変わりましたね」
榊「そうだな」
流れは神城ペース、誰が考えてもわかる。このあと西条は六学打線を完全に抑え無失点で切り抜けた。そして西条は公式戦で初めての完投勝利を収めた。
榊「2球の恐さだな」
南山「ええ」
二人の会話はそこで終わりスタンドの出口へと向かって行った。ちなみに帰りにまた道に迷ったことは秘密だ。
監督「よくやった。疲れたろうから明日は休みじゃ。じゃあ解散!」
全「お疲れでしたー!」
ここは神城高校の校門前。ちょうど監督の話が終わったところだ。勝利したことはもちろん今日の自分達の成績に酔いしれていた。
ピッチャーの西条だって4打数2安打1打点。佐々木に至っては3打数3安打の猛打賞である。
佐々木「今日はようやったわ。帰りにタコ焼きでも買って帰ろうや〜」
篠原「じゃあ一緒に帰ろうぜ〜」
西条「あ、俺も」
笹田「じゃあ俺もだ」
黒崎「俺も!」
川相一「僕たちも」
川相二「一緒に」
川相三「行くよ〜」
・・・・・これだけの人数ならタコ焼き以外に食べるものがもっとあると思うのだが・・・・・。やはり学生さんはお金がないということだろうか。
佐々木「高橋はんは行かへんのか?」
高橋「え?いや僕はいいよ」
高橋はクルッと後ろを向き肩を落とした。今日の成績に高橋は落ち込んでいるのだ。
高橋「(・・・・・)」
夜、高橋の部屋。彼は千葉ロッテマリーンズ×西武ライオンズの試合を見ていた。
状況は9回裏・3-3、2死一・三塁。バッターは松井稼頭央の後を継いだ中島。一打サヨナラのチャンス。
(キン!)
*「中島、打った!三遊間抜ける!」
中島の打った打球は三遊間の多少ショート寄りに転がっていった。だが打球スピードは速い。一瞬誰もが抜けると思った。
高橋「あ、まずい・・・・・え!?」
だがなんとマリーンズの名ショート 小坂がこの打球に追い付いているではないか。
(バシッ)
*「小坂!追い付いたー!そしてセカンドに送球!」
審判「アウトー!」
*「小坂ー!ナイスプレー!サヨナラの危機を救いましたー!」
高橋はまた肩を落とした。自分にはあんな守備はできないと。得意なのは内野手の頭をやっと越えるようなバッティングと他人より少し上手い守備。
他はあまり得意ではない。だが今日の試合に至っては4打数ノーヒット。守備でもエラーを一つ。
しかも相手に点を与えてしまった。キャプテンとして大変情けないと思う。
高橋「・・・・・もう寝よう。なんだか疲れちゃった」
高橋は部屋の電気とテレビを消し布団に入った。窓から月の明かりが差し込んでくる。暗い部屋に寝息だけが静かに響いていた。
今日は終業式がある。授業もないのでかなり楽である。
だが生徒・教師達にとって最大の難関が待ち受けていた。校長のワンマントークショー(校長の話)である。
生徒・教師達の間では「魔の時間」とも言われており生徒・教師合わせて最低10人は気分が悪くなるというまさに1学期最後にしての最大の難関だった。
1学期の始業式は生徒・教師合わせて15人、入学式なんか教頭まで倒れて保健室へと運ばれていったそうだ。
校長「え〜ですから、夏休みは・・・・・」
体育館はかなり暑いのに校長の話はもう20分にも及んでいた。そして今日7人目の被害者が出た。
身長は160pもなく下手したら小学生にも間違われそうな顔。それ
は野球部のキャプテン、高橋だった。
すると後ろに控えていた教師達が手際よく担架を用意し保健室へと運んでいった。
校長の話はまだ続いていた。あと20分は話が続くだろう、誰もがそう予想した。
カーテンは閉まっていたが僅かに光りが入ってき高橋の顔を照らす。それにようやく気付いた高橋は目を開けた。
咲輝「あ、気がついたみたいね。大丈夫?」
高橋は周りを見渡してみた。消毒液などの薬品が入っている戸棚や身長・体重計があった。そして咲輝と自分以外に人はいない。
高橋「ここは・・・・・保健室?」
咲輝「そうよ。校長のトークショーで倒れたの。2時間も寝てたからちょっと心配になっちゃった」
高橋「2時間・・・・・?」
高橋は少し考えて、倒れたときのことを思い出した。そして高橋はまた肩を落とした。
高橋「情けないなぁ・・・・・」
高橋の目は潤んでいた。昨日のこともあり情けなくて情けなくて・・・・・そしてついに涙が零れた。
咲輝は驚いた。私が何かしたのかと思い理由を尋ねた。
咲輝「ど、どうしたの!?」
高橋「僕はイマイチ・・・・・野球部のキャプテンらしくないですよね。
背も低いし力もないしそれに、野球部の皆は平気なのにキャプテンの僕だけ倒れて・・・・・」
咲輝は黙って聞いていた。とりあえず高橋が思っていることを吐き出させたほうがいいと判断したからだ。
高橋「昨日だって、皆打ったのに僕だけノーヒット。しかも下手したら負けに繋がっていたかもしれないエラーをしたんですよ!?
これがキャプテンだと言えますか!?」
高橋の顔は涙でクシャクシャになっていた。咲輝は少し黙って・・・・・口を開いた。
咲輝「本当に真面目だね。高橋君は」
高橋「え?」
咲輝「真面目なのは結構。だけどね、難しく考えてすぎて自分を否定したり責めたりして・・・・・
結果的には自分の力を信じられなくなっちゃう。今の高橋君はたぶんそれじゃないかな〜?」
高橋は黙っていた。咲輝はそのまま話を続けた。
咲輝「キャプテンだからって常に最高を維持できるわけないんだよ。調子の悪いときだってあるんだから。だからいつまでもクヨクヨしてちゃダメ。
篠原君達を見習わなきゃ。前の試合ノーヒットだったけど・・・・・そのときに『次の試合はヒットを打つぞ』って言ってたもん。
だからね、もっと前向きに考えていかなきゃ。もっと自分に自信を持たなきゃ」
高橋「自信を持つ・・・・・ですか」
涙はもう止まっていた。だが目がとても赤く涙の跡が丸わかりだった。咲輝は笑顔で答えた。
咲輝「そう、自信を持つ!」
高橋「・・・・・」
高橋はまた肩を落とした。やっぱり自信がを持てないのだろうか。
咲輝「ありゃりゃ・・・・・よし、わかった。三回戦が終わったら先生とどこかへ行こう!」
高橋「え!?」
突然だったため高橋は驚きを隠せなかった。
咲輝「イヤ?」
高橋「そうじゃなくて・・・・・なんでそうなるんですか!?」
咲輝「たまには息抜きも必要だし・・・・・ね?」
高橋「いいですょ・・・・・ウッ・・・・・」
咲輝は高橋の顔面近くまで顔を寄せた。その目はすごく潤んでいた。まるで佐藤珠緒みたいな目だ。
この状況で「いや」と言えるやつはおよそ結城ぐらいではな
いだろうか。
高橋「わかりましたよ・・・・・」
高橋はしぶしぶOKした。咲輝の表情は笑顔に戻った。これぞ女の武器。
咲輝「決まりね」
しかし何故、三回戦が終わった後なのかというとあの高校と当たるため練習の邪魔になるかもしれないと思った咲輝の優しい心遣いである。
まあ基本的には自分が遊びに行きたいだけだが・・・・・。窓から入ってくる風。
それに踊らされるようにカーテンが揺れる。自分も踊らせれやすいなあと思う高橋だった。