第26章
VS 白零大学付属高校





地方大会三回戦。今日神城高校は榊と南山のいる「白零大学付属高校」と対決する。

10年ぐらい前にこの学校から6人ほどプロ選手が誕生したということもあるらしくその実力は間違いなく全国レベルいや全国上位レベルではないだろうか。

篠原達は絶対勝てないなど言っていたが、結城にはそんなことどうでもよかった。

榊に勝つ、ただそれだけだった。どんよりとした雲が漂っている。その雲の下で結城は理奈に見送られながら家をあとにした。









黒崎「なあ・・・」

笹田「なんだ」

黒崎「俺達三回戦まできちゃったんだよな・・・」

笹田「そうだな」

どんよりとした雲が漂っているせいか部員達の空気は妙に重かった。いや緊張していると言ったほうが的確かもしれない。

だがその緊張感は一回戦のときとは違った。チームのムードメーカー的存在の篠原・西条・由利の三人ですら黙っているのだ。

部員達が緊張するのも無理ない。相手があの「白零大学付属高校」であるからだろう。

だが結城はベンチから出て素振りをしていた。その様子を白零大付属の部員達が見ていた。

*「おいおい、向こうのベンチ見てみろよ」

*「うわ、誰一人動こうとしねぇな」

*「しかも素振りしてるやつなんかもっとひでぇ。なんて冷たい顔をしてやがる」

*「血通ってんのか?あいつ」

隣でその話を聞いていた榊はなんだか申し訳ない気持ちになった。

榊「(すまない結城君・・・・・フォローしようがないよ)」

ただ黙ってその話を聞くしかなかった。すると不意に誰かに肩を叩かれた気がした。振り向くとそこには南山が立っていた。

南山「いよいよですね」

榊「そうだな」

雲ゆきがだんだん妖しくなってきた。それは今日の試合の行方を示しているのだろうか。それは誰にもわからない。

審判「両校互いに礼!

全「お願いしまっす!!

試合開始のサイレンがどこまでも響く。三回戦、神城高校と白零大付属の試合が始まった。


神城高校(先攻)

1番 黒崎  ライト
2番 高橋  セカンド
3番 一条  ピッチャー
4番 結城  サード
5番 笹田  キャッチャー
6番 佐々木 ファースト
7番 篠原  ショート
8番 川相一 レフト
9番 川相三 センター


白零大付属(後攻)

1番 沖田 サード
2番 榛原 ショート
3番 南山 キャッチャー
4番 大神 ライト
5番 唐沢 ファースト
6番 松田 レフト
7番 杉下 センター
8番 長坂 セカンド
9番 榊原 ピッチャー


*「一回の表、神城高校の攻撃です。1番 ライト 黒崎君 背番号9」

黒崎が左バッターボックスに立った。やはり緊張の色は隠せない。そんな中南山はキャッチャーマスク越しに話し掛けてきた。

南山「大分緊張しているけど・・・・・大丈夫?」

黒崎「・・・・・正直立っているのが精一杯」

南山「・・・そう」

南山は短く返事を返した。これは黒崎を心配して聞いたわけではない。

黒崎の状態を確認するためだけに話し掛けただけなのだ。これでリードをたてやすくなった。

南山「(まずインハイにストレートを・・・・・)」

マウンドに立っているのは榊ではなく一文字多い先発の榊原。そのサインに軽く頷き投球モーションに入る。だがそのモーションは妙だった。

黒崎「(おせぇ・・・・・)」

榊原は足を上げてそこで止めた。後ろ足におもいっきり体重をかけているのだ。そしてそこから勢いよく投げた。

黒崎「う、うわぁ!

ストレートが大きな音とともに内角高めに決まった。黒崎は思わず避けて尻餅をついてしまった。

審判「ストライク!」

バックスクリーンの球速表示には137k/mと出ていた。球速では浅瀬川商業のエース 木村と変わらない。

そしてその木村とその仲間達が一塁側のスタンドにいた。

升「今回の先発は榊原か・・・・・」

眼鏡をかけており背は高く175pはあるこの男、升 秀雄が言った。そしてその隣にいる長い髪をしている男、直井 義史がのんびりとした口調で言った。

直井「あいつの球の速さはタクと変わらないんだけどな〜。なあタク」

木村は真面目な顔をして直井に返事を返した。

木村「速さだけじゃあ神城打線は抑えられない」

升「確かに。だがあいつのストレートは・・・・・」

3人の後ろで座っている藤原・増川・中居の3人は口を揃えて「俺達は出番なしかよ」と呟いた。









審判「ストライク!バッターアウト!」

あのあと黒崎は榊原の球にビビって腰がひけてしまい簡単に三振に打ちとられてしまった。

*「2番 セカンド 高橋君 背番号4」

南山は話し掛けずともわかった。こいつも緊張している、そしてこいつが振り子打法の使い手と

榊原「(さぁてどうする?)」

南山「(とりあえずストレートで様子見ますか)」

ストレートのサインをだし南山は外角低めにミットを構えた。

榊原「(だな)」

榊原も頷き投球モーションに入る。足を上げそこで止めてそして投げた。高橋も足を軽く振りそのストレートを打ちにいく。

アウトロー、実は高橋が最も得意とするコースだ。タイミングも合っている。久々のヒットがでる、高橋はそう思った。


(キン!)


打球は高々と打ち上がりサード方向にフラフラとしている。サードファールフライ。サードの沖田は落下点に入り打球をキャッチした。

審判「アウトー!」

南山「OK!ツーアウト!」

南山は大きな声を出し沖田が投げたボールを受けた。高橋はベンチへと帰っていく。手を震えさせながら・・・・・。

*「3番 ピッチャー 一条さん 背番号1」

高橋はバッターボックスへと向かうあおいとすれ違った。そのとき高橋はすれ違いざまに意味深なことをあおいに言った。

高橋「ただのストレートと思わない方がいいよ

あおい「え?どういうこと?」

高橋はそれ以上何も言わなかった。あおいが左バッターボックスに入った。あおいは高橋のさっきの意味を考えていた。

あおい「(高橋君・・・・・あの意味は何なのよ・・・・・)」

まあ考えていたところで答えがでるはずもないが。だがスタンドにいる浅瀬川商業の3人は今の高橋の打席で榊原の何かに気付いた。

升「今のバッター・・・・・」

直井「タイミングドンピシャだったよな・・・・・」

木村「ああ・・・・・あれが俺とあいつの違いだ」

木村の顔はさっきより厳しくなっていた。そして藤原・増川・中居の3人は「頼むから喋らせてくれ・・・・・」半ば諦めたように言った。









審判「ファールボール!」

あおい「(そういう意味ね・・・・・)」

あおいの手は震えていた。高橋が言っていたことがようやく理解できた。

南山「重いだろ。榊原さんの球」

南山はマスク越しに話し掛けてきた。どうやらあおいの様子に気付いたようだ。

あおい「そうね。まるで鉛を打ってるみたいだわ」

南山「例えが上手いね〜。女の子のパワーでは無理かな?」

あおい「失礼ね!あんな球ぐらい軽く外野の頭を越してやるわよ!」

あおいはカンカンになってキレてしまった。南山はこれが狙いだった。南山はサインを出しど真ん中にミットを構えた。

カウント2-1、榊原はワインドアップオーバースローから投じた4球目。

あおい「(こんなストレートぐらい・・・・・)」

あおいはフルスイングで榊原の投げたストレートに対応した。

南山「(かかったな)」

だがそのストレートは突然軌道を変え真下に落ちた。あおいのバットは勢いの良い風切り音をたて空を切った。

審判「ストライク!バッターアウト!」

升「出たな・・・・・」

直井「ああ・・・・・」

木村「奴のウイニングショット・・・・・

藤原・増川・中居「(頼むから喋らせてくれ・・・・・)」

球場に夏に吹く風とは思えないほど冷たい風が吹いた。




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