第28章
暗雲の下の戦いA





三回戦、さすがに1塁側、3塁側の両方スタンドは応援しにきた人達で埋まっていた。

大体は神城と白零大付属の生徒だがその中にはスカウトや他校の生徒も交じっていた。1塁側スタンドの入口に可愛らしい少女が一人立っている。

理奈「電車に乗り遅れて遅くなっちゃった!しかも結構いるし〜」

別に私服でもいいのに何故か制服を着ており、そして片手に傘を持っている。それは結城の親戚兼妹の川上理奈だった。

理奈「どこに座ろうかな〜?・・・・・あ、いいとこ発見〜♪」

理奈はちょこちょこ歩いて行き1塁側スタンドの一番前でバッターが見えやすいところの席に座った。

隣に中年の2人が座っている。見た目は若そうだがシワがところどころ目立っている。

1人はサングラスをかけておりそれなりに威圧感がありそうだがそれが理奈に伝わることはなかった。

サングラスの男「あのピッチャー・・・・・まさか・・・・・」

髪の長い男「・・・・・間違いない」

理奈「・・・・・?」

今の言葉を聞いてさすがに理奈はこの2人が何者なのか考えてしまった。あのピッチャーつまりあおいのこと。

それを間違いないと言った。妖しい・・・・・。理奈は一度軽く深呼吸をして心を落ち着け、そして2人に話し掛ける。

理奈「あの・・・・・」


(キィン!)


一条危ない!

髪の長い男とサングラスをかけた男は二人同時に「あ!」という声をだした。理奈もグラウンドの方に首を向ける。

理奈「え!?

そこには信じられない光景が目に写った。そしてそれは波乱な試合の始まりを告げる合図でもあった。









笹田「一条!危ない!

あい「あおい!

打球はあおいに一直線に向かってくる。避けなければ顔面直撃である。

あおい「


(バシィィィ!)


球場が一瞬静まり返った。打った本人も何が起きたか把握できていない。ただわかることは大きな音がしたこと。

するとあおいはグローブを高く上げた。その中には白球がしっかりと納まっていた。

審判「ア、アウトー!スリーアウトチェンジ!

あおいは目をつりあげて南山に対して怒鳴った。

あおい「あんたね!私の可愛い〜顔を傷つける気!?」

南山「いや、そこまでコントロールでき」

あおい「問答無用!今度やったらビーンボールぶつけるから!

南山「まあまあ怒らない怒らない。可愛い顔が台なしになるぞ」

あおい「う・・・・・まあわかっているならいいかなぁ・・・・・」

あおいは微かに頬を赤らめさっきよりボリュームを落としながら言う。

南山「物分かりいいじゃん(単純で良かった)」

それから5秒ぐらいだろうか、スタンドが大騒ぎし始めた。メガホンを叩く数少ない神城の男子生徒、飛び跳ねる神城の女子生徒、

そして飛び跳ねたときに見える◯◯◯を必死で撮るむさ苦しい眼鏡をかけてオタク顔の大学生(?)etc・・・・・。

とにかくあの強烈なピッチャー返しをとったあおいに1塁側スタンドはおおいに湧いた。

南山「ホッ・・・・・もうちょっとで人殺しになるとこ・・・・・いや殺されるとこだった」

南山は捕られて残念というよりも捕ってくれてよかったようだ。









*「二回の表、神城高校の攻撃です。4番 サード 結城君 背番号5」

結城「さてと・・・・・いくか」

あい「あの・・・・・」

結城「・・・・・なに?」

あい「が、頑張ってください!」

あいは顔を真っ赤にして慌ただしく礼をした。結城にはそこまで恥ずかしいことなのかよくわからない。ただ応援してくれていることは確かだ。

あいの頭に手をポンッと置く。するとあいの体がビクンと反応する。ビビっているのだろうがそれが可愛く見える。

結城「そんじゃ行ってくる」

あいは頭をあげ打席に向かっていく結城の後ろ姿をずっと見ていた。

そしてその光景をずっと見ていた篠原達は全員で襲うとか寝込みを襲うかなどと結城を殺す計画をたてていた。









審判「プレイ!」

結城はいつものようにバットを前に軽く振り構えた。結城は必ずその構えからピクリとも動かさない。まさに不動の姿勢。

南山「おお・・・・・やっぱ近くでみるとすげーな」

結城「そりゃどうも」

南山「でもそんな打ち方が榊原さんに通用するかな〜?」

結城「さあな」

結城は軽く南山に一言返してやった。あんまり長く話しているとささやき戦術にかかってしまいそうだからだ。

南山もささやき戦術が効いていないと思い普通に考えることにした。

南山「(さて、どうするかな・・・・・)」

結城をちらりと見る。表情は・・・・・ない。緊張している様子も見られない。こういう相手がキャッチャーとして一番難しい。

ただ2試合連続でホームランを放っていることからパワーがあることは確かだ。ならば・・・・・。

南山「(フォークボールを・・・・・)」

南山はフォークのサインを出し高めにミットを構えた。榊原もやや戸惑いながら頷き、投球モーションに入る。

足を上げてそこで止めてそして投げた。結城は上げていた足を降ろしたが高めのボール球と判断しバットを出さない。

だがその球は突如軌道を変え高めのボールから高めのストライクゾーンに鋭く落ちてきた。

審判「ストライク!」

結城はまた軽くバットを振りそして同じように構える。

結城「フォーク・・・・・か」

一言呟いたものの特に驚いている様子は見られない。

南山「凄いだろ。榊原さんのフォークは」

結城「そうだな。プロ顔負けの変化だな」

南山「・・・・・」

少しぐらい驚いてくれよと心の中で思う。

髪の長い男「高校生にしては凄いフォークじゃな」

サングラスの男「ええ。でも私はそれよりあのバッターのほうが凄いと思いますよ」

髪の長い男「凄いというより珍しい。一本足で打っている選手なんぞプロ・アマ合わせてもほとんどおらんじゃろうな」

サングラス男「ですね。さあ・・・・・何を狙ってこの投手から打つのか・・・・・」

今度は尚史のことを言っている。理奈は今度こそと髪の長い男の肩を叩き声をかける。

理奈「あの・・・・・」









(キィーン!)


審判「ファール!」

篠原「ああ〜」

由利「おしい!

結城「少し早かったか・・・・・」

打球はレフトのポールの外側つまりファールゾーンへと勢いよくキレていった。

南山「(あ、危ないとこだった・・・・・)」

榊原「(フォークを芯で捕らえやがった・・・・・)」

カウントは2-1。榊原は結城に対して2球フォークを投げた。1球目はフォークを見逃しストライク。

2球目のストレートは見逃してボール。そして3球目のど真ん中から鋭く落ちるフォークを結城は難なくすくい上げたのだ。

だがこれは大きくキレて結局ファールになった。だがさっきの大ファールで南山はサインを出すのに迷っている。

南山「(榊原さんが投げれる球種は落差が小さいカーブと落差の大きいフォーク。それと重いストレート)」

そして、投げていない球はカーブのみ。下手すれば一発やられるが南山はこれに賭けてみることにした。

榊原もさすがにそのサインに中々頷こうとしないが南山はサインを変えようとしない。

榊原「(あんな緩いカーブ投げたら長打は避けられないぞ)」

南山「(でも、投げていないのはこれだけですから)」

南山はやや外角低めに構えている。榊原は南山を信じやっと首を縦に振った。そして変則投球モーションから投じた4球目。

ボールは小さな孤を描いている。結城は先程のフォークとの球速差に引っ掛かることなくこれを打ちにいった。


(キィン!)


榊原「

打球は一・二塁間をもの凄い速さで抜いていった。1塁手と2塁手は一歩も動くことができなかった。

結城「(ライト前・・・・・いや!)」

黒崎「

西条「いつの間にあんなに前に!?

なんとライトだけが前進していたのだ。このままではライトゴロになる可能性もある。

南山「ライト!ボールファースト!」

あおい「結城君!全力疾走よ!」

結城「(これが全力疾走だ・・・・・)」

ライトの大神はボールを捕ると素早くモーションに入りファーストへと送球する。結城も1塁ベースを必死で目指す。

南山「(際どい!)」

結城は1塁ベースを踏んだ。そしてその同時にファーストもライトから送られたボールをキャッチした。

バシッと音ともに球場に静寂が訪れる。審判がゆっくりと口を開く。

審判「アウトー!

白零大付属のベンチ、そして3塁側のスタンドはさっきの神城の生徒が騒ぐより騒がしかった。

*「ウワァァァァ!

松田「大神!ナイス!」

榊原「よっしゃ!」

南山「OK!ワンアウト!」

由利「ああ〜・・・・・」

西条「これが白零大付属・・・・・」

あいはとやや駆け足気味に結城に向かっていった。

あい「お、お疲れさまです。残念でしたね・・・・・」

顔を下に向けているが明らかに赤くなっている。そんなに暑いのかと思う。結城は無言であいの頭を撫でた。

あいの体がさっきと同じ様にビクンッ!と反応する。やっぱり可愛いと思いつつも結城はヘルメットをゆっくりと取りベンチへと向かった。

その同時にライトの大神をちらりと見た。

結城「(あいつ・・・・・どこかで・・・・・)」

結城はベンチに座って自分の記憶を探っていった。だが笹田と佐々木の2人が三振で終わりその回が終わっても結局思い出せないでいた。




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