第30章
暗雲の下の戦いC





現在5回の裏。ここまで神城高校3安打。白零大付属も3安打。そして両チームのスコアボードには0の文字しか刻まれていない。

緊迫した投手戦。ここで1点でも失えばかなり辛い状況に陥るだろう。先に崩れるのは果たしてどちらだろうか。

沖田「チィ!」


(カキィ!)


審判「ストライク!バッターアウト!チェンジ!」

沖田のバットはあおいのストレートに掠ったものの笹田がこれを捕ったため三振で終わった。

あおいはガッツポーズを作り「しゃあ!」と叫んだ。それを聞いた結城は・・・・・。

結城「(三振で終わらせたら叫ぶみたいだけど・・・・・福原愛みたいに叫ぶから可愛く聞こえる)」

可愛いというような感想を持っていた。たぶん他にも似たような感想を持っている奴はいるだろう。

だがスタンドにいる桜庭(?)と坂本(?)の場合は少なくとも違ったようだ。

坂本?「そっくりですね・・・・・彼女に

桜庭(?)に返事はなかった。元々坂本(?)は返事など期待してはいなかった。どうやら桜庭はその彼女とやらの思い出を思い出しているようだ。

桜庭?「(司・・・・・)」









*「6回の表、神城高校の攻撃です。3番 ピッチャー 一条さん」

ここまでのあおいの成績は2打数2三振とよくなかった。そのためかあおいは無性に腹が立っていた。南山はそんな様子を感じ取ったのか話し掛けてきた。

南山「ピッチングは凄いけど・・・・・バッティングがあれじゃあね」

あおい「き、今日は調子が悪いだけよ」

あおいは込み上げてくる怒りを抑えて話しているみたいだが南山にはそれがしっかりと伝わっているようだ。

南山「まあ調子が悪いなりに頑張ってね〜」

南山はニコニコ笑っている。マスク越しなので見えないと本人は思っているがあおいにはそれがはっきりと見えていた。

さらにその笑顔があおいの怒りに火をつけたのも知らずに・・・・・。









あい「あの娘は必ず何かするよ」

あいはいきなりそう言った。隣でいた由利は驚きながらもあいに尋ねる。

由利「いきなりどうしたの?」

あい「今あの娘かなり機嫌が悪いの」

由利「どうして?」

あい「たぶん2三振が原因だと思うけど・・・・・」

由利「だからあんなにブンブンバットを振り回しているんだ・・・・・」

二人はもの凄いスイングをしているあおいだけを見ていた。

審判「ストライクツー!」

あおい「あー!もう!どうして当たんないのよ!」

南山「(おー、焦れてる焦れてる)」

南山は榊原に2球スローボールを投げさせていた。あおいの短気という性格を見抜いてだからこその配球である。

南山「(もう1球スローボールいきましょう)」

南山はスローボールのサインを出すとミットを高めに構えた。

榊原「(1球外してまた焦らす・・・・・ということなのか?)」

榊原は戸惑いながらも頷き投球モーションに入る。足を上げて一旦止めて・・・・・そしてそこから投げた。

南山は立ち上がってその球を受けようとする。外角高め、それも完全なボール球。それは大体打者の頭ぐらいの高さぐらい外れている。

南山「(焦れたところで次ストレートを投げこんでやれば三振で打ちとれるはず)」

だがその考えが使われることはなかったうえ南山のミットにその投げた球が納まることもなかった。

あおい「(もう怒った!)」

あおいは大きく内側へステップしボール球を打ちにいった。


(カキィィン!)


南山「(な・・・・・)」

榊原「(なんだと!)」

打球は右中間をフラフラしている。あおいはバットを放り投げ1塁へと走り始めた。

結城「(やることがMr.ジャイアンツの長嶋さんかMr.ローカルズの桜井さんとそっくりだな)」

もし敬遠打ちができないほど外されたら素手構えるんじゃないかと思った。









桜庭?「ヘックシュ!」

坂本?「風邪ですか?」

桜庭?「いや・・・・・誰か噂しとるんじゃろう」

理奈「ティッシュいります?」

桜庭?「じゃあ何枚か貰おうかのう」

理奈は鞄の中からポケットティッシュを取り出し桜庭(?)に渡した。『チーン』という鼻をかむ音が小さく響いていった。









南山「ライト、センター!バックだー!

榊原「(あの高さを普通打つか!?)」

打球は落ちてくる気配を見せない。1塁側のスタンドから吹く追い風に乗って打球は伸びていく。それはどんどん伸びていく。

杉下「(どこまで伸びるんだ?)」

あおいはその間に1塁を蹴り2塁を目指していた。打球はやっと落ちてきた。杉下はフェンス前でグラブを構えた。

杉下「オーライ、オーラ・・・・・」

打球は芝生に落ちたような音がした。杉下は打球が落ちてこないことに気付き後ろを見た。

フェンスの小さな穴から泥の付いた白球が見える。次に杉下は審判を見た。手がグルグル回っている。


(ウァァァァァァ!)


1塁側スタンドは総立ちだった。あおいは全力疾走を止め、ゆっくり走り始めた。

南山「(1球外して焦らすつもりが・・・・・)」

榊原「(まさかホームランになるとは・・・・・)」

沢垣は榊を呼びブルペンで投げ込むように伝えた。あおいは手荒く歓迎されベンチへと帰っていった。

あおいのこのホームランが神城高校に流れを引き寄せた。


(ギィン!)


南山「左中間!レフト、センター!早く!」


(カキーン!)


榊原「(俺は・・・・・1年に)」

審判「ファアボール!」

榊原「(負けるのかよ!)」

神城高校はあおいのホームランを皮切りに4番結城の左2塁打、6番佐々木のレフト前ヒットなどで1点追加しそのうえ2死満塁と大量得点チャンスとしていた。

*「1番 ライト 黒崎君。背番号9」

黒崎「(打点のチャンスだぜ。ここで打ってあいちゃんと・・・・・グフフ)」

黒崎は構えながらなにやらよからぬことを考えていた。そのとき放送が流れた。

*「白球大付属、選手の交代をお知らせします。ピッチャー榊原君に変わりまして」

結城「(くる)」

*「ピッチャー 榊君。背番号10

神城高校のベンチはエースを打ち崩したと喜んでいたがそうではない。榊のことをよく知っている結城、一条姉妹はわかっていた。

これからが本当の戦いだということが・・・・・。黒崎は一旦打席を外そうとしたが、榊に呼び止められた。

榊「投球練習しないからそのままでいいよ」

審判「いいのかね、君」

榊は笑顔で「ハイ」と答えロージンを片手に取った。

黒崎「偉く余裕だな。あの榊とかいう人」

南山に返事はなかった。黒崎は気付いてないが南山の顔はさっきまでヘラヘラしていた顔とは違いかなり厳しい顔付きに変わっていた。

松田「来たな・・・・・」

杉下「白零大付属の黄金バッテリー・・・・・

榊は手に持っていたロージンを地面に放り投げた。

審判「プレイ!」

南山「(さあ・・・・・見せてやりましょう。白零大付属の本当の投手ってやつを・・・・・)」

榊は体を前ヘ大きく倒した。クラシックワインドアップ。結城はあおいちゃんはたぶんこの人の投法を真似たんだなと思う。

審判「ストライク!」

バックスクリーンの表示にはとんでもない球速が表示されていた。

結城「150k/m。第1球目からこれだからまだこれより速い球は投げれるな」

一条姉妹と結城を除くは部員は固まっていた。しかしあの球速を目にしときながら冷静にいられる俺は一体なんだろうかと思わず思ってしまった。

結局黒崎はバットを振ることすらできずに3球三振で終わった。そして回は進み7回表。2死でランナー無し。この選手の名前が放送で告げられる。

*「4番 サード 結城君。背番号5」




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