第33章
夏の女選会議





激動の3回戦から2日がたった。現在7時ちょうど。練習まであと1時間あるが野球部内(女子3人と結城除く)である会議が行われていた。

全員かなり深刻な顔をしている。一体どんな内容なのか・・・・・。そして議長と書かれた名札をつけている篠原が口を開く。

篠原「ここにいる全員はもうわかっていると思うが・・・・・」

笹田「・・・・・」

実は笹田は別にいたくてここにいるわけではない。篠原達に「お前は俺達と同類項だ」とかわけのわからないことを言われて無理矢理連れてこられたのだ。

どうせくだらない話なのは目に見えている。だがこの話は女子3人が来るまでやると言っていた。つまり約1時間。早起きは3文の得というが得などしていない。

それどころか眠いし、同類項として変な会議に無理矢理参加させられるし、途中でコーラ買ったら冷たいおしるこがでてくるし3文の損をしているではないか。

所詮は諺だなと結城みたいに思う。

篠原「学校の女子を彼女にするなら誰がいいか理由も述べて答えてもらおう・・・・・。まず大成(西条)から」

西条は椅子からゆっくりと立ち上がった。何故か自信満々の顔をしている。

西条「当然俺はあいちゃんだ」

西条は胸を張って答えた。しかも何故かここにいる全員が拍手を送った。これでは西条がまるで村を救った英雄みたいだ。

篠原「流石だな。目が高い。では理由は?」

西条「あの優しい笑顔が最高だからだ!」

全員「いよ!流石!

すると「おおっ!」とまた拍手が巻き起こった。しかもさっきよりも大きい。

結城がいれば間違いなく「帰る」とか言い出すだろう。話はどんどんヒートアップする。

篠原「じゃあ次は黒崎!」

黒崎「俺か!?

黒崎は大きな声を出して反応した。ここにいる全員の視線が高橋に集まる。

黒崎「・・・・・やっぱあいちゃんだろ」

全員「おお!

西条のときと同じ様に拍手が巻き起こる。黒崎は照れているのか少し顔が赤い。

篠原「理由は?」

黒崎「やっぱ優しいところかな。なんか癒されるというかなんというか・・・・・」

川相一郎が「僕も同意見です」と手を上げて言った。やはり一条あいはモテるようだ。

篠原「じゃあ次は・・・・・間をとって高橋!」

高橋「ぼ、僕!?

高橋は顔を真っ赤にしながら反応した。まるで赤色の絵の具を塗ったようだ。

高橋「ぼ、僕は・・・・・こ、この学校にはいないよ」

全員が「おおっ!?」という声を出した。高橋の体は驚いてビクッと反応する。

篠原「マジでか!?この学校以外の意見がでるとは・・・・・。わかった。座っていいよ」

高橋はホッと一息つき胸を撫で下ろしながら席についた。

篠原「次は・・・・・笹田!」

来てしまった。いよいよ自分の番が来てしまった。今度から必要なとき以外早起きはしないことを今決めた。

笹田「俺は・・・・・白木かな?」

いやいや言う割には正直に答える笹田。中々律義なやつだ。

篠原「お、由利ちゃんがきたな。理由は?」

笹田「まあ・・・・・元気な姉貴みたいな感じだからな。一緒にいたら楽しそうだ」

全員「よく言った!」

今度は西条のときよりも黒崎のときよりも高橋ときよりも大きな拍手が巻き起こった。流石に恥ずかしくなったのか指で頬を軽く掻いていた。

篠原「じゃあ次は・・・・・二郎と三郎!」

川相二「はい」

川相三「ほい」

二郎から順番に返事をすると順番に席を立ち上がった。

川相二「僕たち2人も」

川相三「白木さんが」

川相二・三「いいです」

篠原「珍しく一郎と意見が食い違ったな。で、理由は?」

川相二郎と三郎は顔を見合わせ同時に頷く。そして口を開く。

川相二「あの〜♪」

川相三「胸が〜♪」

川相二・三「最高で〜す♪」

2人は何故かテンポ良く意見を言った。しかしまた拍手喝采だった。2人は礼をしながら席についた。

篠原「確かに胸が15歳にしちゃあボン・キュ・ボーンだもんな。あいちゃんはまな板っぽいし。じゃあ佐々木」

佐々木は「出番やな」と言いながら席を立った。西条と同じ様に何故か自信満々あな顔をしている。

佐々木「ワイはまな板派や!というわけで福原あいちゃんや!

篠原「そりゃ卓球の選手やろ!

全員「・・・・・」

今、ここにいる部員全員がシラけた。ベタベタな漫才でテンションが下がったようだ。

佐々木と篠原は顔を少し赤くし「ゴホン」と一つ咳をついてから席についた。

篠原「とにかく・・・・・まな板なら一条もそうじゃん」

西条「確かにそうだな」

視線が佐々木に集まる。しかし佐々木は特に表情を変えることなく言う。

佐々木「一条の場合、暴力的やん。だからあいちゃん」

篠原「優しさの違いってとこな。確かに一条の暴力は凄い」

西条「俺、おさげ触ったらおさげで殴られた」

黒崎「同じく」

篠原「結構被害出てるな・・・・・これで終わりか?」

その言葉を発した瞬間、視線が一斉に視線に集まった。篠原はその視線の急な集まりに戸惑いを隠せない。

篠原「えっと・・・・・俺言ってなかったな。当然あいちゃんだろ」

全員「理由は?」

篠原「ふっふっふ・・・・・」

何故か不適に笑う篠原。髪の毛で尚更不気味に見える。今度は逆に全員が戸惑う。

篠原「やっぱり全部だろ!顔も心も性格も!」

突如静寂が訪れた。何故か全員黙っている。篠原ダラダラと冷汗を流して固まっている。焦りは隠せない。そして・・・・・。

西条「流石!あいちゃん一筋だな!」

黒崎「おう!立派!立派!」

全員が「やるな!」とか「立派!」といった褒め言葉を篠原に向かって口々に叫ぶ。

篠原も嬉しくなり拳を天井に飾す。まるでライブで「ありがとうー!」と叫ぶヴォーカルみたいだ。

篠原「というわけであいちゃん5票。由利ちゃん3票。その他1票という結果だ!じゃあこれで会議は終了する!」

全員「お疲れ様ー!

ワイワイ言いながら部室のドアノブに触れる。その瞬間、ガチャとドアが開いた。女子マネ2人の登場だ。

あい「皆さん早いですね。何してたんですかぁ?」

由利「そうね。いつもはもっと遅いのに」

ギクゥ!とする篠原。西条も黒崎も同じ様にギクゥ!としているが。

笹田はこの状況をどう乗り切るのか呑気に考えていた。自分も同罪なんだが・・・・・。

篠原「し、試合のときのことを振り返っていたんだよ!な、なあ!大成!

西条「あ、ああ!試合を振り返ることだって必要だしな!ははは!」

由利は妖しいと目で訴えかけるような感じで篠原や西条を見る。もう大ピンチとしか言いようがない。篠原は一か八かの方法に出た。

篠原「あ!タケコプターをつけた豚が空を飛んでる!

あい・由利「え!?

2人は同時に空を見上げた。その隙に篠原達は全速力で走る。全員がギャグ漫画のキャラが食い逃げをしたみたいな顔をしている。

由利はしまったという顔をしたが時すでに遅し。ただ地団駄を踏むしかできなかった。

由利「私としたことが〜。空飛ぶ豚ってエースコックの豚じゃないの!」

あい「ゆ、ゆーちゃん、怒るとこ違うよぉ」

アワアワしながら由利をなだめるあい。ちょっとした地震で子どもが慌てるような感じだ。

由利は頭を抑え「ハァ」とため息をを一つついてあいのいる方向に首を向けた。

由利「もういいや。着替えよ、あーちゃん」

あい「そうだね。そろそろあおいも来るだろうしね」

由利「そうそう!昨日のテレビ見た!?」

あい「見た見た!おもしろかったね!」

2人は話に花を咲かせながら部室のドアを開けた。その2人の後ろ姿を篠原達がホッとしながら見ていた。









会議が終って10分が経った。篠原達は全員ランニングしている。あいと由利は2人でヤカンとコップを洗っている。

そのときグラウンドに2人の人影が現れた。結城とあおいだ。だがあおいはなにやらご機嫌斜めの様子。

あおい「もう!あの親父最悪!人のお尻勝手に触ってきて!」

結城「(よく言うよ。その親父のカツラを奪って電車の窓に投げ捨てて泣かしたくせに)」

だが口には出さない。それを言うと火に油を注ぐのと同じでその怒りを自分にぶつけられるてしまうだろう。被害を被るのはごめんだ。

あおい「ああ!もうムカつく!ムカつくから先に着替えるからね!」

あおいは部室のドアを乱暴に閉めた。

ムカつくのと先に着替えるのは関係ないのではと思うがさっき言ったように怒りをぶつけられるのは目に見えているので言うのは止めておく。

ここで待っているのは暑いので木陰で待つことにする。

結城「暑い・・・・・」

そう言いながら結城は寝っ転んだ。









あおい「・・・・・何、このノート?」

あおいは机の上にあった1冊のノートを見つけた。お姉ちゃんのかな?と思いつつノートを開く。そこにはあることが記されていた。

あおい「これって・・・・・」

怒っていたあおいだがこれを見て愕然とした。ノートに記されていた内容とは・・・・・。









あおいが出てきた。着替え終わったみたいだ。だが何かが違う。覇気がない。さっきまであった怒りはどこへいったって感じだ。

結城「・・・・・中で何があった」

とにかく自分もさっさと着替えて後で聞いてみよう。そう思いドアを閉めた。すると机の上に1冊のノートが置かれていた。

誰のだろうか名前を確認するが書かれていない。妖しい・・・・・。そう思った結城はノートを開いた。

それには『誰を彼女にしたいか』と表にして理由まで綺麗にまとめられていた。だがあい5票、由利3票その他1票としか書かれていない。

その他1票と入れた奴は除くが・・・・・もっと学校に女ぐらいいるだろうと思う。もしかして全員、話が出来る女はこの2人だけなのか。

いや・・・・・そういやあいは学校で1番人気があると聞いたことがある。

それなら5票ぐらい当然か。だが由利に入れた奴は・・・・・胸って書いてある。・・・・・変態が。だがここで気付いたことがある。

結城「そういやあおいちゃんの名前がないな。まさか彼女はこれを見てショックを受けた・・・・・とも言い切れないよな」

すると結城は何かを探し始めた。引きだしを開けると探し物はすぐに見つかった。

結城「本心なのかどうかわからないけど・・・・・」

結城はそう呟くとペンを片手にノートに何かを書き始めた。









日も暮れて夕方、練習が終わり篠原達は楽しそうに会話をしていた。これからどうするかとか宿題はどうとかそんな内容だ。

そこへある大きな声が聞こえた。篠原達は何事かと部室へと駆け込む。

篠原の目には制服姿のあおいとあいと由利がノートを見ている光景だった。その瞬間、篠原は固まってしまった。

あい「まな板って・・・・・ひどいですぅ。誰が書いたんですか?」

由利「ボン・キュ・ボーン・・・・・って。朝早く来ていたのはこういうことだったのね!」

篠原「や、やばい・・・・・」

あおいは黙っていた。そう自分には1票も入ってないのだ。野球部内のことだが何故かショックを受けている。わかっていることなのに何でだろう。

あい「あおいは1票しか入ってないけど『可愛いし頑張っている』ってコメントされてるしさ〜。いいな〜」

あおい「・・・・・え?」

篠原達も同じ様な反応を示した。誰もあおいには入れてないはずなのだ。

篠原「おい大成・・・・・まさか結城が入れたってことはないよな」

西条「まさか・・・・・な」

あおい「(結城君が書いた・・・・・のかな?)」

そう思った瞬間、自分の顔が熱くなっているのに気がついた。心もドキドキしている。

結城を思い浮かべただけでそんなになるなんておかしいと思う。まさか私は・・・・・。そう思う自分を必死で否定する。

あい「顔が赤いよ?大丈夫?」

あおい「だ、大丈夫!

何故か慌てて返事を返した。私の馬鹿・・・・・なにやってんのよ。ただ自分を否定するあおいだった。









結城「早くバイク直らないかな・・・・・」

午後11時、結城尚史はベランダから夜空を見上げていた。何故か星を見たくなったのだ。

結城「あおいちゃんのコメントに可愛いって書いたけ」

ど・・・・・バレてないっていうか彼女怒ってないよな」

もしバレて怒られたらそれこそ最悪だ。バレてないことを祈りたい。

結城「まあ頑張っているのは本当だしな」

するといきなり睡魔が襲いかかってきた。非常に眠い。仕方がないので部屋に入り、電気を消してベッドに入った。

夏の夜空。無数の光が輝いている。その夜空を1人の旅人が流れて行った。




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