第2章
突然の出来事





色鮮やかに咲き誇る桜の木々。少しの風で散ってしまうのもまた趣がある。昼下がりの神城高校。校内にはほとんど生徒は残っていない。

今日は校内一斉の実力テストがあった。3教科しかない故に終わるのは早かった。現在の時刻が大体2時5分前。

それが終わったのは今から2時間も前のことだ。正直、俺にとってテストなどどうでもいいが。

あい「はい」

結城「うい」


(カキーン!)


短い距離をボールが真っ直ぐ飛びネットに突き刺さって力無く落下する。そしてボールはネットの周りを適当に転がった。

すぐに構えあいはまたボールを投げる。そしてそれを俺が打つ。またボールがネットの周りに転がる。

このためネットの周りはボールだらけだ。どうせ片付けるから関係ないが。

咲輝「全員、集合!

部室前で咲輝が叫ぶ。急いで来たらしく息を切らしているみたいだ。

外野を走っていたあおいや素振りをしていた高橋といった部員達は練習を止め咲輝のほうへ駆け寄った。

篠原「何があったの咲輝ちゃん」

咲輝「ちゃん、づ、付けで呼ば、ないの」

とんでもなく息を切らしているな。この先生が慌てるということはよっぽど重要なことなのだろう。この先生が慌てているところなど見たことがないしな。

あい「先生・・・・・大丈夫ですか?」

あいは咲輝の背中を優しく摩っている。咲輝は膝を抑えて顔をうつむけてハァハァ言っている。とてもじゃないが話が出来る状態ではない。

咲輝「あい、ちゃん・・・・・こ、これを大きな、こ、声で、読んで」

咲輝は胸のポケットから1枚の紙を取り出しあいに渡した。あいはそれを大きな声で読み上げる。

あい「え・・・・・と。4月1日、笹田大樹君が転校しましたって、これって!?

咲輝「紙に書いている通り笹田君がどこかの学校へ転校しちゃったわけなの」

あまりの出来事すぎて誰もが無表情で固まっている。無表情で固まっていないのは結城と意外にも黒崎だった。結城もこの黒崎を見て何か違和感を感じた。

いつも篠原や西条と一緒に馬鹿騒ぎしている奴だ。そんな奴が動揺しないとは・・・・・。絶対何かある。

篠原「・・・・・あいつ」

西条「まさか・・・・・裏切ったんじゃないだろうな」

すると黒崎は突然西条を押し倒した。黒崎は冗談で怒ることはあっても本気で怒ったことはない。あまりにも突然すぎる黒崎の行動に部員達は騒然となった。

黒崎「ササは裏切るようなやつじゃない!冗談でもそんなことを言うんじゃねぇぞ!

篠原「黒崎やめろ!

篠原や高橋が止めに入るが黒崎は胸倉を掴んだまま放そうとしない。やはり黒崎は笹田について何か知っている。

知っていることを聞き出すにはまず暴走しているこいつを止めなければならない。結城は小さなため息を吐いて暴走している黒崎に近づこうとした時。

あおい「止めなさい〜!!喧嘩してる場合じゃないでしょ!

髪を束ねた少女、一条あおいがでかい声を張り上げて叫んだ。2人は一瞬すくみ上がる。その同時に結城は悟った。「俺の出番はないな」と。

だからといって彼女にムカつきはしないが。それに文句を言ったところで殴られるだけだ。結城は両腕を組み黙ってその光景を見ていることにした。

あおい「西条君は笹田君を疑ったから悪い!黒崎君は西条君を押し倒したから悪い!両方悪い!だからお互いに謝りなさい!」

黒崎「んなめちゃくちゃ・・・・・」

あおい「問答無用!謝まらないとアレをするけどいいの!?

黒崎・西条「すいませんでした!

2人は同時に腰から先を曲げて勢いよく謝った。さらに同時すぎて2人分の声のはずが1人分しか聞こえなかった。

まあ、何はともあれ丸く(?)納まった。流石はあおいちゃん。

高橋「と、とにかく。一緒に野球が出来なくなったのは辛いよ・・・・・でもそれは笹田君だって辛いはずだよ」

全員の視線が高橋に集まる。小声で「高橋、カッコイイ」とか「男なのに惚れそうだ」とか聞こえてくるのは気のせいだろうか。

高橋「だからね。笹田君の分まで頑張ろうよ、皆」

高橋・・・・・今お前が凄くカッコよく見えた。その辺にいるイケメンよりもカッコよかった。

その言葉はここにいる全員に届いたらしくウンウンと頷いている者やそうだよな、というような表情をしている部員ばかりだ。

篠原「よし!笹田の分まで頑張って練習だ!

西条「よっしゃ!

高橋「その意気!その意気!

ムードが良くなってきた。例えるなら流しとアイドルグループの違いぐらいか。さっきまでの険悪なムードが嘘のようだ。

たがここでムードを下げてしまうことを思いついてしまうのは何故だろうか。だがこれはかなり重要なことなので仕方がないが。

結城「・・・・・笹田のポジション

馬鹿みたいにうかれている奴らが一斉に俺の方へ向いた。どうやら俺の言った意味がまだわかってないらしい。ならばわからせてやるまでだ。

結城「キャッチャーが出来る奴は?

篠原「そりゃお前さ・・・・・!」

どうやら気付いたようだな。キャッチャーが出来るのは笹田、あいつだけだ。

だが笹田が転校してしまったということはキャッチャーがいなくなったということ。またもや大ピンチである。

篠原「どうすっぺよ?」

西条「おらに聞くなだ!」

2人はそのピンチにショックをうけたのか田舎ッペ大将みたいな口調になっていた。こいつらがショックをうけるということはまさか・・・・・。

結城は部室の横にある大きな木を見た。それは去年、顧問がいなくなったときと同じで高橋が木にロープを巻きつけていた。

しかも誰も気付いていない。仕方がないので俺は高橋目掛けてボールを投げた。

音はしなかったがドサッという音ともに高橋が倒れた。なにやら赤い水たまりが出来始めているが気にしない。

結城「・・・・・また部員探しか」

佐々木「その必要はあらへんで」

今までずっと出番がなかった佐々木が「ワイの出番や!」と言わんばかりの顔をしている。

結城「何故だ」

佐々木「ワイの妹がキャッチャーなんや

田舎ッペ大将になっていた篠原・西条、なにやら思いつめた顔をしている黒崎、おもしろい動揺の仕方をしている川相3兄弟etc・・・・・

が一斉に佐々木の方へ振り返った。結城はこの先どうなるかお見通しだったのか耳を完全に塞いだ。

全員「なに〜〜〜〜〜〜〜〜!

佐々木はフラフラしていた。たぶん今の声が相当響いたのだろう。やはり耳を塞いで正解だったと思う。

篠原「お前の妹キャッチャーやってんのか!?

西条「ていうかお前に妹がいたのか!?

黒崎「可愛いのか!?

3人は佐々木の胸倉、両肩を掴み右や左や斜めなど色んな方向へ揺らした。

佐々木「やめーい!

流石に佐々木も頭にきたのか3人に顔を真っ赤にして怒鳴った。3人は慌てて佐々木から離れる。

佐々木「妹は男顔負けのキャッチャーなんや。だからワイが家に帰って頼んでみるから感謝してくれや」

さっき怒鳴られたばかりというのに馬鹿3人はまた佐々木に近づいた。だが今度は佐々木を持ち上げ胴上げをし始めたのだ。

馬鹿だな・・・・・俺は後ろを振り返った。だが誰もいない。さっきまであいやあおいちゃんがいたのに・・・・・。まさかと思い俺は首を前に戻した。

結城「・・・・・おいおい」

その光景を見て思わずため息が出そうになる。胴上げの人数が3人から10人に増えていた。

あいや由利、さらに咲輝まで一緒にやっている。つまり結城と高橋を除く全員。

結城「馬鹿・・・・・ばかり」

俺のノリが悪いのかそれとも向こうが馬鹿なだけなのか・・・・・たぶん両方だろうという答えを出す。

空は青く太陽が眩しい。結城は頭をポリポリと掻きため息を1つついた。




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