第17章
目覚める大阪パワー





7月○日。雲1つなく、水が浮かんでいるような青空。生き生きと輝き続ける灼熱の太陽。

徳島では昼が来るまでに30℃を越える気温を記録していた。だが、それは今日に限っては相応しいものかもしれない。

ここ徳島営鳴門総合運動公園野球場にて、夏の甲子園の切符を賭けて、激しい戦いが連日行われていた。

そして、それも今日の決勝戦で勝者と敗者が決まり、終わりを告げる。果たして、その切符を手にするのは一体どちらなのだろうか。

*「4回の表、神城高校の攻撃です。1番 キャッチャー 佐々木 真奈さん」

真奈「よっしゃ!今度は打つでー!

3本のバットを勢いよく放り投げ、打席に向かう真奈。そして、放り投げたバットは全て佐々木守に直撃しており、見事頭から血の泉が吹き出していた。

佐々木「真奈・・・・・家に帰ったら、ルイージの刑や・・・・・」

ルイージの刑。それは、顔にルイージの髭を、油井マジックで書く刑。油井のため、1日や2日では消えない。

そのため、その髭が書かれた状態で、生活をしなくてはならないのだ。ある意味恐ろしい刑である。

佐々木「(フフフ・・・・・あいつの困り果てた顔が楽しみやわ・・・・・)」

ネクストバッターサークルで、くだらない仕返しを考えている兄に対して、真奈は真面目に榊と南山の配給を読もうと、必死で考えていた。

真奈「(1打席目は、スローボール3球っていう、無謀なリードだったんよな。流石に、もうスローボールを続けるわけないわな)」

真奈はひとまず、追い込まれるまではバットは振らないことを決めた。その理由は、まず一振りに賭けたいこと。

これは相手に駆け引きされないため。そして、バットを短く持つこと。一発を狙うだけなら簡単である。だが、それは当たらなければ意味がない。

野手の間を抜くような打球で塁に出る。塁に出れば、ゲッツーがない限り、4番に回る。とにかく、ここは1点が欲しい。

南山「(バットを短く持ってきたな。とにかく塁に出たいみたいだ)」

相手が技で打つなら、こちらは力で打ち取る。力のある球、則ちストレート。

南山「(最もストレートの威力を発揮できるコースは唯一つ・・・・・)」

体を打者の方へ僅かに移動し、ミットを低く構えた。

南山「(インローだ。それも完全なストライクじゃなくて、僅かに外したボール球だ)」

このコースは、1番ボールが生きてくる。榊さんの球なら、まず打たれることはない。

南山「(全力でお願いしますよ)」

榊「(僕はいつだって全力さ)」

真奈に対して第1球目。その言葉に嘘はなかった。まさに尚史に見せた投球そのもの。

真奈「(速!でもこれなら初球から狙ってもええ!)」

真奈も負けてはいなかった。バットを短く持った分だけ、スイングが早い。タイミング的にはやや振り遅れ気味だが、ヒットにはなりそうだ。

真奈「(初ヒット頂きや!)」


(キィン!)


南山「ライト!

打球は高々とファーストの上をフラフラと越えて、ライトに上がっていた。浅いライトフライ。大神が走ってこれを捕球しに行く。

ポテンヒットになってもおかしくない位置だったが、ギリギリ追い付き、白球が大神のグローブに納まった。

審判「アウト!

真奈「んなあほな・・・・・。確かに芯で捕らえたはずや」

このライトフライは真奈にとって信じられなかった。感触は確かにライトスタンドーーー

真奈「手が・・・・・」

ではないことにやっと気がつく。自分の手が震えているのだ。ボールの芯で捕らえたのではなく、ボールの下を叩いてしまったのだ。

真奈「流石に一筋縄ではいかんな・・・・・。やけど、この打席の兄貴はそうはいかんで」

額から汗を流れてくる。だが、真奈はそれを拭おうとせずに、ニヤニヤと不気味に笑っていた。

*「2番 ファースト 佐々木守君」

佐々木「よっしゃ!今度は打つでー!

真奈「真似すなー!阿保兄貴!」

ベンチから、真奈の罵声が飛んで来た。まあこれは予想通りだったし、阿保呼ばわりされてるのはいつものことだから気にしない。

審判「プレイ!

佐々木「(見よれよ〜。この打席のワイは一味違うで)」

佐々木は一旦バットを立て、そして体の前に横に寝かせて構えた。その打法の名は神主打法。

神主様がお祓い棒を振り翳すときの風貌が似ているところからその名前がついたそうだ。

南山「(神主打法ねぇ・・・・・。見た目は変わってるんだこどねぇ)」

あ、でも俺が1番変わってるか。つーか、あんな打法知ってる高校生なんて俺ぐらいだろうな〜。

南山「(まあそれはともかく・・・・・。まず様子見に1球外すか。勝負は次からでいいや)」

南山はストレートを外角低めに外すよう、サインを出し、ミットを外角低めに構えた。榊もそれに頷き、投球モーションに入った。

真奈「南山さん、榊さん・・・・・」

ベンチで腕と足を組んで、佐々木守と榊の勝負を冷静に見守っている真奈。

真奈「様子見に行ったら、あんたら2人に負けやで。なんせ兄さんは」

南山「(あ、これは外し過ぎ・・・・・)」

真奈「ボール球しか狙ってへんからなぁ」

真奈がそう呟いた瞬間、


(グワラガキーン!!!!!)


榊「

打球はピッチャーライナー。榊が慌ててグローブを出すものの、佐々木の打った球はその上を越え、センターへ。

南山「センター!もっとバックだ!

真野「(ボール球で、なんでこんなに伸びるんだ!?)」

真野は打球を必死で追うが、明らかに打球の方が速い。

真野「(やばい!入っちまう!)」

佐々木「いけー!入れー!

佐々木は1塁を蹴ったところで叫んだ。


(ガシャ)


打球は、フェンスの上部に直撃した。そして打球は力を無くしグラウンドの芝の上に転がる。

あと10cmほど高ければスタンドインであっただろう。真野は、転がっているボールを素手で掴み、セカンドへと返球する。

その間に佐々木は、立ったまま悠々2塁へ。センターフェンス直撃のツーベースヒット。そしてそれはこの試合、両校通じて初ヒット。

佐々木「真奈やったで!関西打ち成功や!

大きく拳を突き上げて佐々木は、ベンチに叫んだ。それに真奈は大喜びしながら、返事を返す。

真奈「これでスランプ脱出やで!」

ベンチと2塁の選手が盛り上がる中、マウンドでは呆気を取られた2人が会話を交わしていた。

南山「普通あんなボール球打ちますかね。見逃してれば、ワンバンになってたかもしれない球ですよ」

榊「まあ、ホームランにならなかっだけマシだな。それよりも次の打者だ」

*「3番 センター 川上さん」

理奈が左バッターボックスの横でゆっくりとゴルフスイングを繰り返している。何か意味がありそうだが、本人いわく、これといった意味はないそうだ。

南山「さっきは、実戦で初めて投げた球だったから打ち取れたけど、今度はそういかないですよね。さてどうしますか?」

榊「そこを何とかするのが、キャッチャーの役目だろ」

南山「ですよね。まあこの南山に任せてくださいな」

南山がそう言って、元の守備位置に戻って行き、榊は、頼んだと一言だけ言って、キビスを返した。









審判「プレイ!

理奈「(ワンアウト、ランナー2塁か・・・・・。あれやってみようか)」

理奈は佐々木の神主打法みたいに、バットを横に寝かせて構えた。

尚史「秘打の前触れ・・・・・」

ネクストバッターサークルで座っている尚史が一言呟いた。

南山「(なんか・・・・・神主打法というのが気になるけどな。とりあえずここは進塁打を防ぎたい。今回は外角で全て勝負だ)」

南山がストレートのサインを出し、榊がそれに頷く。振りかぶって第1球目。外角低目のストレート。際どいが、コース的にはストライク。

南山「(な、なんだ〜?)」

さっきまで神主打法で構えていた理奈の姿がなく、グリップエンドを腰まで引き付け、バットの先が下を向いている構えに変わっていた。

理奈「(作詞 村下孝蔵、作曲 木下孝蔵・・・・・)」

尚史のように足を大きく上げ、内角の球を打つように肘を完璧に畳んで、それを打ちにいった。

理奈「秘打!踊り娘!




[PR]動画