こうしてボク、相楽麻衣は謎の金髪美少女に貞操を奪われてしまいましたとさ。

目が覚める。今見た夢を見て猛烈に自己嫌悪したくなった。昨日の夢を見るなんて・・・

今考えても顔から火が出そうだ。どうしてあんな事したんだろう。自分でも分からなかった。

時計は6時半を差している。こんなに早く起きたのには理由があった。

昨日、あれから早速理恵と約束をしてしまったのだ。これからは毎日学校まで一緒に行くように、と。

理恵の中学校も巽島高校のすぐ近くにある、つまりこの寮の近くにあるのだが

一緒に行くと言うことはわざわざ麻衣が理恵を迎えに行ってやることになる。

麻衣は身支度を済ませると食堂で食事を終え、学校へ行く準備をするとさっさと寮を出た。

わざわざ島の反対側へ行かなければならないのだ。どうしてこんな事をするハメになったのか・・・

そうなると昨日の話になるのだが、あのことはあまり思い出したくない。

そんな事を考えているうちに屋敷の前まで歩いてきていた。

インターホンを押し中へ入れてもらうと屋敷の大きなドアを開けて中へ入る。そこに理恵の姿はなかった。


「あの、お嬢様、は・・・」


せわしなくパタパタとその辺を飛び歩いているメイドを1人捕まえてそう聞いてみた。

するとまだ起きてきていない、という返事が返ってきた。・・・まだ起きていない?

自分が早起きしてここまで来てるのにまだ寝てるというのか。太い神経の持ち主だ。

麻衣はそんなことで青筋を立てながら理恵の部屋へと歩いていった。

部屋の前で一呼吸、そして部屋の中へと入る。天涯付きのベッドが膨らんでいる光景が真っ先に目に入ってきた。

麻衣はベッドの前に立つと、思いっきり布団を引っぺがす。

そこには眠り姫が寝息をすーすーと立てながら気持ちよく寝ている姿があった。


「朝だ、起きろ!」



















第5話 理恵達、周りからなんて思われてるかな?



















「もう〜、なに〜?」

「なに〜?じゃない!迎えに来いって言ったのはお前だろ!」


ベッドから起きあがると目をこすりながら、半分寝ぼけたままであろう状態で理恵は大あくびをした。

まだ半分夢の中にいるのだろう、こっちの話なんて聞いてるわけがない。


「あ、お姉ちゃんおはよう」

「おはよう・・・ってそれより早く着替えろ。遅刻しても良いのか?」


理恵はようやく頭が覚醒してきたのか、ゆっくりとベッドから降りるとクローゼットを開いて制服を取り出した。

中学の制服は高校の制服とは少しデザインが違う。


「お姉ちゃん、着替えさせて」

「自分でやれ」

「えー、だってメイドさん呼ぶのめんどくさいんだもん」


結局メイドさん任せか。さすが箱入りのお嬢様だ。理恵は文句をぶつぶつ言いながらパジャマから制服に着替えていた。

その間、麻衣は理恵の方を背中にしてぼんやりと考え事をしていた。


「お姉ちゃん、もうこっち見て良いよ」


麻衣はくるりと振り返って理恵の方を見る。制服を着た理恵は普段着の時とは少し違った印象を受ける、

中学生というより小学生が制服を着てるみたいだ。そして何よりやっぱりかわいい。


「じゃあいこっか」


そう言うと理恵は中学校の鞄を持って部屋を出た。麻衣もそれに続く。

そして2人は階段を降り、ドアを幾つか通った先の部屋へと歩いていった。

その部屋はとても大きな部屋で、大きなテーブルに1つだけちょこんと朝食が用意されていた。恐らく理恵のものなのだろう。


「お家の人は?」

「ん〜、パパもママももっと朝早くに家出ちゃうから。いつも理恵1人で食べるの」


それもなかなか寂しい食卓じゃないだろうか。いつも寮の食堂で1人で食べてる麻衣が言うのもなんだが。

まあ朝なんて顔を合わせないのもザラだしそんなこともないか。

理恵がテーブルに着くと麻衣もその隣の椅子に腰掛けた。

特にすることも無いのでしばらくぼうっとしてると、理恵が麻衣の制服をちょんちょん、と引っ張る。


「なんだよ」

「これ、あーんって食べさせて」


渡されたのはベーコンが刺さったフォークだった。何でいちいちそんなことを・・・

と思ったがまあやって欲しいと言うならしてやらないこともない。麻衣なりの優しさだった。


「はい、あーん」

「あーん」


ぱくっと食べてしまう。麻衣は朝食の中から今度はサラダをフォークで刺すとまたあーん、と理恵にそれを食べさせた。

・・・これ結構面白いかもしれない。そんな2人で仲良く・・・という図になってるであろう食事は10分ちょっとで終了した。

理恵はメイドと執事に挨拶をするとさっさと家から出て学校へ向かった。麻衣もその後を歩く。

朝から上機嫌らしい理恵は鼻歌を歌いながらニコニコと歩を進めていた。

正直何がそんなに楽しいのか分からない。麻衣からしたら厄介事を押しつけられて寧ろブルーな気分。


「ねぇお姉ちゃん、手繋いで良い?」

「嫌だよ、恥ずかしい・・・」

「えー、本当はお姫様だっこして欲しいくらいなのに」


そんなことはさすがに出来ないので手を繋ぐくらいなら・・・と思い理恵の小さな手をきゅっと握ってあげた。

理恵も握り返してくる。・・・言うほど恥ずかしくないかも。


「理恵達、周りからなんて思われてるかな?」


やけに楽しげな声が隣から聞こえてくる。理恵は手を繋いであげたことで上機嫌に上機嫌を重ねた状態になっていた。

口数も多くご機嫌ということが手に取るように分かる。


「仲の良い姉妹、とかじゃないか」


麻衣もその理恵のプラスオーラに押されて何だが気分が良くなってきた。

朝から何やってるんだ・・・と思ったがそんなことは今はどうでもよかった。

自分の隣で誰かが笑っている、そんな状態は嫌いじゃない。何だかこそばゆい気分だ。


「それで野球部の件なんだけど・・・」

「その事ならパパに頼んでおいたよ。学校と掛け合ってみるって」


麻衣はほっとした。こんな手を使ってまで野球部を復活させようと言うのだから確実にやってもらわなければ困る。

しかし突拍子も無い交換条件だな、とは我ながら思う。

そうこうしている間に気づけば中学校の手前まで来ていた。理恵は麻衣の手を解き、

小走りで学校の校門の前へと走っていく。そして大きくこっちに向かって手を振ると。


「また放課後にね!」


そう言って学校の中へと入っていった。放課後・・・は野球部があるから多分会えないんだが・・・

それを告げる前に理恵の姿が見えなくなってしまったのだから仕方ない。

麻衣も高校へ向けて歩き始めた。昨日までとは少し変わった登校風景。こんな日々が続くのだろうか。



















放課後。まさか授業をフルで受けるのがこんなに辛いことだとは思いもしなかった。

数ヶ月前まで何気なくやってきたことが、辛く感じる。今までの自分への戒めのようだった。

だが、これからは思い切り身体を動かせる。麻衣は心踊る思いで野球部の部室前へと向かった。

そこには既に人だかりが出来ていた。皆、野球部が復活するという報せを聞いて来たに違いない。

麻衣はその人だかりの中を覗いてみると、そこには意外な人物がいた。


「だから、俺は野球をやりたいだけなの。分かる?」

「そんなこと信用できるか。寄りにも寄ってお前が・・・」


人だかりの中心にいたのは金髪のツンツン頭、金城だった。

金城は何やら熱弁をしているようだがイマイチ状況が飲み込めない。話をしているのはこの間の伊藤という男だった。


「どうしたんだ、翔平」

「麻衣っ、こいつら俺が入部希望だって言うのに信じようとしないんだ」

「はあ?」


まさにはあ?としか言いようのない発言だった。

この間まであんなに野球を忌み嫌っているような発言をして挙げ句あんな目にあわされたのに・・・懲りてなかったのか。


「何の冗談だ」

「冗談なんかじゃねぇっつーの!」


こんなところで押し問答をしていても仕方ない、誰かキャプテンみたいな話の出来る人物はいないものか。

麻衣は辺りを見渡してみるがそれらしい人物はいない。その時だった。


「どうしたんだい?こんなところで」


そこを見ると眼鏡をかけた長髪の男が立っていた。手には野球道具、そしてこの風貌。

この男が野球部のキャプテンと見て間違いないだろう。麻衣は経緯を説明しようとした、しかし。


「こいつが野球部に入りたいって言うんだよ、榊原」

「君は・・・金城君だね?」


榊原と呼ばれた相手は金城を見ただけで金城だと言うことを認識した。

どうやら金城がこの島では有名人だという話は本当らしい。あまり信じたくもなかった話だが・・・


「アンタがキャプテンか。俺をこの部に入れて欲しいッス、よろしく!」

「だから信用出来ないんだよ、お前は」


伊藤が一蹴するものの榊原はしばらく考えて、ぽん、と手を叩いた。何かをひらめいたようだ。

期待の眼差しを金城が向ける。榊原は一呼吸置いて話をし始めた。


「良いだろう、認めよう。入部届は後で書いてもらえるかな?」

「いよっしゃー!」

「おいおい良いのかよ榊原!」


金城がガッツポーズを決める一方で伊藤は戸惑いの表情を見せていた。

まさか榊原が一発でOKを出すとは思っていなかったのだろう。しかし榊原は当然、と言ったような顔をしている。


「あの、すみません。ボクも入部希望なんですけど・・・」


その輪に無理矢理入っていくように麻衣が挙手をする。一同の視線は一気に麻衣に向けられた。

ただでさえ狭い島で女の子が野球、受け入れてくれるだろうか。そんな不安が頭を過ぎった。


「君もかい?もちろん歓迎だよ。君、名前は?」


だが、麻衣の不安はあっと言う間に消え去ることになる。

彼らは麻衣が不安がるような人間ではなかった。あっさりと受け入れられ、夢見心地のまま挨拶をした。


「ボクは相楽麻衣・・・相楽麻衣です!」




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