第4話
閑話休題





僕は今、静岡でも有名な高級料亭で夕食をご馳走になっていた。それはなぜかと言うと、話は数時間前に遡る。







『テストの結果は後日、郵送で送りたいと思います。本日はお集まり下さり誠に有難うございました』

ぞろぞろと球場を後にする他のテスト生達。僕も帰ろうとしていたが、あの葉山に捕まってしまった。

「おチビちゃん、おチビちゃん」

誰がチビだコラー!!

怒る僕を葉山が指差す。ふつふつと湧き上がる殺意を抑えていると、葉山が突然とんでもない事を言った。

「ちょっと私に付いて来て下さい」

「へ?」

「つべこべ言わずにさっさと来いっつてんの〜〜。小さいくせに態度は一人前に大きいんだから」

どっちが態度大きいんだと思いながらも腕ずくで連行されていく。

だーかーらー!まだ付いて行くって決めた訳じゃ・・・」

最後の方は聞こえるか聞こえないか判断しにくい位の声で返答していた。

「あっ、オーナー代行。ちゃんと捕まえましたよ」

向こうから誰かやってくる。夕日に照らされて見えたのはオーナー代行の政明だったが、僕の方は要領を得ない。

「ご苦労さん。特徴のある体格とは言え、あの群れの数から探すのは至難の業だからね。感謝するよ」

一通り、葉山に礼を述べると政明は僕の方を向いた。

「ちょっと付き合ってくれないか?良い店紹介するから。それに色々と聞きたい事もあるだろ?俺にさ」

口調は誘っていたが、強制的な意味合いに取れた。

「まぁまぁ、取りあえず車に乗って」

そう言って僕を用意させたリムジンに押し込めると、自分も乗り込み車を発進させた。







「食べないのか?」

目の前に高級料理が山のように並んでいるが、庶民派の人間にとっては見た事もない料理だ。

「この時期はカキだな、カキ。瀬戸内海で獲れるカキは絶品だ」

カキを頬張りつつも僕に薦めて来る。一口食べてみるが、上手いのかどうか分からない。

「口に合わないのか?だったらお子様ランチでも頼むか?」

本気でお子様ランチを頼もうとしていた政明の言葉を僕は遮る。

「本当の用件は何?回りくどい事は止めてそろそろ本題に・・・」

「スイマセン、フグ頼むよ。因みにフグの天然養殖含めての漁獲量日本一は長崎なんだよ。

下関の専門店で出されるフグ料理の大半は長崎から輸送されてるって・・・知ってた?」

ダメだ。人の話を聞いちゃいねぇ・・・。そんな豆知識はどうでもいいんだけど・・・。

「冗談だよ、冗談」

こいつの言ってる事はどこまでが冗談か分からない。おしぼりで手を拭くと口調を一変させる。

「君はどう思う?」

・・・は?いきなりそんな事を聞かれても何を答えたらいいのか見当もつかない。

「新球団の事だよ。妹が夏にあんな事を言わなかったら今頃は楽に球団を持てたのは分かるか?」

ダイエーか西武を買収したかったのだろうか。確かに選手集めとか時間を要する新球団より200億払って球団持った方が何かと都合が良い。

「かと言ってウチや楽天みたいな新規球団を否定したい訳じゃない」

お互い未成年なので酒ではなく、コーラを口に含む。

「果たして・・・儲かるかね?この野球と言う商売は」

農業大学の附属高校に言ってた僕に経済の話が分かる訳がない。

「それもそうだな。じゃあ、はっきり言おう。俺はこの際商売は二の次にしている。この世界は夢を売って何ぼだ。

試合を見に来た人がまた来たくなるようなチーム、それが俺の理想とするチームだ」

いつのまにかテーブルにはフグが並んでいる。だが、政明はそれに目もくれない。

「観客が来るにはどうしたら良いか?まずはチケットの値下げだ。ナゴヤドームの5階席が2000円だと?試合はよく見えないし、年間固定だ。

そんなシートに金を出す庶民がどこにいるよ?だから値下げする事は意味がある」

「だったらどれ位にするつもりなんだ?」

少し考えてたから政明は金額を提示した。

全席子供が500円、大人は1000円。ついでに球場内の飲み物は飲み放題にでもするかな」

・・・本当に商売二の次だな。一番金が入るはずのチケット代でその位だとホームゲームでの収入が10億行くか行かないかの値段設定だ。

それも飲み物セルフと言うファミレスみたいなオマケつきで。

「その他にも球場でしか買えないグッズや来場者全員を抽選して、100人程度にブランド品や旅行のプレゼントでもしようとも思っている」

その後も政明の熱い演説は続いた。残りは割愛するが、どれもこれも魅力的な物ばかりだった。そのうちに話はトライアウトへと移っていた。

「そう言えば君は50メートル走で8秒台って言うかなり遅いタイムだったけど、大丈夫なのか?」

「野手じゃないし、パリーグは指名打者制だから投手にそんなに走力要らないだろ?」

それに納得したかのように頷く政明。・・・信じるなよ。

「まぁ、いいや。どの道高校生は合格だし

ん?聞き捨てならないセリフが聞こえたぞ?もう一回言ってくれ。

「最低3年で日本一狙えるチームにしてくれって龍堂には頼んだんだよ。3年経てば高校生も結構な戦力になるだろ?」

えーっと、それは何か?ある種の詐欺なのか?高校生をトライアウトに参加させた意味が全く理解できない。

「ホラ、新球団だから今年のドラフトの選手だけだと圧倒的に足りない。

湊のように他所から来る選手もいるけど・・・基本的にはこのトライアウトで補充するつもりだったんだ」

本当に人の話を聞かないな。こっちの質問無視して自分だけしゃべくりかよ。

「いやいや、何人かは落とすよ。そうでなくちゃ怪しまれる

非公式だったのに怪しまれる所があるのだろうか・・・。

「それもそうだな」

苦笑すると思い出したかのようにフグに手をつけた。

「あっ、そうだ。そろそろ本題に入ってもいいか?君をここに呼んだ理由・・・」

僕が聞きたい事を尋ねてから既に1時間経過してるんですけど・・・。

「明後日は暇?実は大事な商談が入ってね。君と・・・そうそう、森坂って言ったっけ?その人を連れて商談に来てほしいんだよ。

場所は当日、迎えをよこすからさ」

一気にまくし立てる政明。有無を言わさないスピードがある。

「その間は北海道に帰れないけどいいかな?親御さんにはこっちから連絡しておくし、ホテルもグループ系列の所を宛がうから」

そこまでされては首を縦に振らざるを得ない。森坂の携帯番号は知ってるし、まだ福岡に帰ってないはずだから間に合うだろう。

「助かったよ。俺はこれで失礼するけど、そこにおいてある料理食べてからホテルに行くといい」

忙しさを前面に出しつつ、政明は退出した。残ったのは僕と大量のフグだった・・・。

「・・・やっぱ、口に合わね」







「あ、お兄様どうでしたか?」

「ん〜?不破がOK出してくれたし、もう一人の森坂って奴を伴うってさ」

門川兄妹が携帯を通じて会話をしていた。

「肝心のそっちはどうなんだ?」

「ええ、向こうも了承してくれました。結構無理がありましたけど幾らか握らせたので最悪、ドタキャンはないでしょう」

「なるほどね。後は当日待ちってわけね」

妹との電話を切ると、別の相手に引き続き電話を掛けた。

「もしもし?俺だよ俺。俺だってば」

オレオレ詐欺を仕掛けるが、相手も電話のしてきた相手が政明だと分かっていたので乗って来なかった。

「何だよノリ悪りーな。それより編成部長、呼んでよ」

保留音が少し流れると編成部長が電話口に出た。

「あー、代行の政明だけど・・・。亮太郎と孝史は間に合いそう?」

『ええ、明日か遅くても明後日には契約が結べる所まで来てます』

「後は・・・志願はどうなってる?」

『その件ですがね・・・。湊はともかくとして、他にもう二人来てます。しかも超大物ですよ』

電話越しに超大物の名前を聞いて政明は驚きの表情を見せた。

「マジで?マジで来てくれるってその人言ってんの?」

何度も確認させ、それが事実と確信を持った時、政明は大きなガッツポーズをした。その興奮が冷めないうちに電話を切った。

「これで陣容は整ったと言っても過言じゃない。後は明後日次第・・・」

既に彼の心は明後日に向いていた。







そして2日後

「騙された」

僕はそんな気分で一杯だった・・・。




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